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書評 2010.04

プロフェッショナルの言葉

 さまざまな分野の第一線で活躍するプロの仕事を掘り下げるNHKのTV番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』は,硬派な作りで会社員のファンも多い。本書では番組に登場したプロフェッショナル“ここイチバンの名言”を,担当ディレクター各氏が紹介している(06年1月から08年3 月までの81人分)。番組では出演者の選定に当たって絶対に外せない条件があったという。それは「現場のまっただなかにいる人」「今,この瞬間も最前線で仕事と格闘をしている人」だ。といっても若手のことではない。多くは幾多の困難を乗り越えてきたベテランであり,会社員なら定年に達しているであろう年齢の方もいる。そして必ずしも派手な仕事ではないところが視聴者の共感を呼ぶようだ。例えば「名前を残したいというような欲があっては,いい仕事はできません」(文化財修理技術者)などは象徴的な名言だろう。「プロフェッショナルを突き動かす信念」「プロフェッショナルの思考テクニック」「プロフェッショナルの人を活かす力」の3部構成を味わいたい。

●著者:NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班  ●発行:幻冬舎/2010年2月20日
●体裁:四六版/176頁  ●定価:1,200円(税別)

内定取消!

 多くの人事担当者は“こんな話はあり得ない!”と憤るだろう。リーマンショック後,卒業間近の女子学生に災難が降りかかる。ある企業が内定者を個別に呼び出し,選考を担当した役員が「あんたはクズの中のクズだ」と罵声を浴びせ,情報処理系の資格を5日で取得してくるよう命令するのだという。さらに日を改め試験を行い,出身高校の偏差値を調べ上げ「地頭が悪い,キャリアを考え直せ」となじる。「内定取消」とは絶対に言わず「内定辞退」の書類を用意し,陰湿にいじめ抜く。にわかには信じられない話が延々と綴られ,これはフィクションではないかと何度も疑いたくなるのだが,語られていることは事実のようだ。やがて,女子学生は同じような面談が数十人に行われている実態を突き止める。大学は特別支援措置として卒業延期を認め,学生らの間ではメーリングリストが立ち上がる。労働相談情報センターで当事者との話し合いが持たれ,一応は謝罪文を勝ち取るのだが……。2度目の就活を乗り切るまでの壮絶な記録が痛々しい。

●著者:間宮理沙  ●発行:日経BP社/2010年3月8日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,300円(税別)

心を励ます社長の名言

 90人近くの内外の有名経営者の名言をピックアップし,人物とエピソードを紹介した伝記物語集に仕上がっている。登場人物1 人につき見開き構成というコンパクトなまとめ方ながら,内容はけっこう充実している。「逆境をプラスに転じる信念」「チャレンジ精神」「商機を読む・先見力を磨く」「ぶれない信念・哲学」「自分を磨き・人を育てる」といった各章にふさわしい多彩な人物が登場しつつも,希望と挫折,そして何らかのきっかけをテコに再起するドラマが共通していて興味深い。そもそも登場する多くの経営者は,初めからトップの座にいたわけではない。その点で各氏の知恵,覚悟,行動,そして「名言」に託されたメッセージは現役のサラリーマン,管理職の心にもリアリティを持って届くはずだ(もちろん人事部の皆さんには「キャリア」や「人材力」を考えるヒントを与えてくれる)。不況のどん底,人生の苦境のときほどこの手の名言は“効く”とされる。座右の銘とは,こんな本のページから見つかるのかもしれない。

●編著者:ビジネス哲学研究会  ●発行:日本文芸社/2010年3月15日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:724円(税別)

日本型キャリアデザインの方法

 本書は社会人向けのキャリア形成ガイドブックといえ,自ら節目を意識して職業生活に取り組む必要性を著者は説いている。といっても,細かな計画は選択を狭めるとし,若い人には自分探しに陥る前に“まずやってみること”を強く勧める。一人前になるまではどん欲に課題をこなし,知識・体験を吸収していく「筏下り」をアドバイスする。その上で,10年程度体験を積んでくると,仕事に余裕ができるなど“適切なタイミング”がやってくるとし,この節目で「山登り」に転じることが大事だとキャリア論の神髄を展開する。「山登り」とは,プロとして1つの頂上を目指すこと,すなわち腹をくくって他を捨てる選択でもある。守破離のステップで,やはり10年程度の時間をかけて頂点を極めるイメージになる。さて,問題はここからだ。20年かけてプロの域に達した後,さらに20年近い現役時間がある。この先について著者は,@ゆっくりと山を下りる,Aその山をもう一度登る,B別の山を登る,という3つの選択肢を示し,天職全うの可能性を探っている。

●著者:大久保幸夫  ●発行:日本経団連出版/2010年4月1日
●体裁:四六版/155頁  ●定価:1,200円

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki