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書評 2011.12

「世界標準」の仕事術

 現在以上に経済のグローバル化が進むとき,「日本人・男性・四大卒・正社員・長期雇用」という枠に守られてきた人材は大きく価値を下げ,国籍・年齢不問の競争に巻き込まれると著者は警告する。そこで必要とされるのが世界標準の働き方だとし,グローバルで通用するテクニカルな仕事の進め方の数々を綴っている。構成は「34のルール」と,その実現を支援する「TOOL」からなる。必須とされる英語力では,高いレベルは求められず,重要なポイントは「沈黙ではなく発言」だとされる。また,多くの仕事がプロジェクトで進むことに伴い,役職に関係なくリーダーシップの発揮が欠かせなくなると指摘。そのリーダーシップを突き詰めると構想力(結果をイメージし,ストーリーで語る力)に行きつくとし,アイデアのひねり出し方,企画のまとめ方,時間の使い方など,生産性の高い仕事に挑むためのスキルを紹介している。いずれも日々の仕事に有益なアドバイスで,「世界標準」を意識するまでもなく,さっそく試してみたい内容だ。

●著者:キャメル・ヤマモト  ●発行:日本実業出版社/2011年10月1日
●体裁:四六版/255頁  ●定価:1,500円(税別)

「上から目線」の構造

 心理学を研究する著者は「上から目線でものを言われた」と不満を口にする人々が増えている現象に注目する。「対等なはずなのに上から目線で言われるとムカつく」心情は理解できるとしつつ,上司からの指導やお客様からのご意見にも「上から目線で言うの止めてくれますか」などと逆ギレする態度には違和感を覚えるとし,この問題を深掘りしている。属人的な背景では,劣等感コンプレックスや対人関係力の未熟を疑い,それが被害者意識を生み出していると分析。また,上司の側に「上からで何が悪い」と開き直れない弱さがあることも認め,実力が伴わない場合に部下から反論される構図を指摘している。一方,「上から」語る側の動機が,親切心か,優越感かで意味が異なるとも述べ,受け手が親切心を理解できないケースで“見下され不安”が増殖される心理作用を読み解いている。さらに,問題の背景には,文化的な事情も関係していると見て,母性の強い日本社会の特徴と父性弱体化の課題に言及。組織・文化・家族関係の再考も問いかけている。

●著者:榎本博明  ●発行:日本経済新聞出版社/2011年10月11日
●体裁:新書版/229頁  ●定価:850円(税別)

キャリア開発24の扉

 古今東西の「キャリア理論」が有益であることに異論はないが,素人が1つひとつ読み解いていくには壁がある。その点で,本書は多くの関連理論・学説を概観し,24枚の象徴的な図解に整理し,それを社会人の身近な視点で具体的に解説するという面白い1冊に仕上げている。編著者らが「旅行ガイドをイメージした」と語る通り,どのトピックから読んでも,それぞれの切り口でキャリアに対する認識を深めていけるようになっている。複数の著者による記述ながら,内容は“JOBとWORKとLIFE”“自己啓発と組織開発”“自分の気持ちと果たすべき役割”といった対立項を乗り越え“組織・仕事・人・心”の関係を複眼的に理解していくスタンスで一貫している。「キャリアの見通しを立てたところで先のことなど分からない」といった批判も了解しつつ,「不透明な時代だからこそ考えることに意義がある」と切り返す。人の数だけ答えがある“個人と組織の関係”について,人事部門がどのような位置に立つべきなのか,そこを考える刺激もまた得られそうだ。

●編者:小野田博之  ●発行:生産性出版/2011年10月25日
●体裁:四六版/303頁  ●定価:2,800円(税別)

アイデアが湧きだすコミュニケーション

 日々の業務,顧客対応,会議などで「コミュニケーションの課題」を訴える企業が多いと認識する著者は,改めて生産的な会話とは何かを本書で突き詰めていく。一見,単語が往来しているケースでも,意味のやり取りが成立しているかどうかは再検証する必要があるとし,シンプルな会話モデルからコミュニケーションが齟齬を来す瞬間を捕択する。また,会話を通して新しいアイデアや打開策をひねり出すには,一定の思考訓練が欠かせないとして,「対話」の機能に注目している。すなわち,相手を打ち負かす「議論」ではなく,双方の引き算でしかない「妥協」でもなく,相互の違いを認めるところから価値を探る高度なアプローチを模索し,最終的には“対話による組織変革”まで狙う。マニュアル通りの浅い顧客対応,押し売りと変わらない提案営業,事実を焼き直しただけの会議発言などが蔓延する組織はすでに潜在的には危機状態にある。そこでスキル研修に走るのか,その前に問題の本質を見極めるのか,両者の差は大きいに違いない。

●著者:松丘啓司  ●発行:ファーストプレス/2011年10月28日
●体裁:四六版/185頁  ●定価:1,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki