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書評 2012.04

会社員 負けない生き方

 1969年に設立された国策ビジネススクール「貿易研修センター」3期生のその後を追ったインタビュー集だ。計66社から派遣された79名に取材し,そのうち22名の独白を本書に紹介している。各氏とも1970年を前後して海外進出準備のため民間各社から選抜されてきた優秀な方々であり,相当のエリート揃いである。しかし,40年以上の現役人生の間にはめまぐるしい内外の変化があったようだ。海外勤務を経て転職や独立の道を歩んだり,新商品開発の矢面に立ち出向を繰り返したり,本人の事情に関係なく本社が消滅してしまうといった危機にあった方もいる(当時「出世を棒に振った」と思った決断が実は最良の選択だったと振り返っている)。40年の生き方は各氏それぞれながら,共通して読み取れるのは内面からにじむ自信,決断力,勝負魂の確かさだ。レールを乗り換える要領の良さではなく,未知の領域に頑固にレールを敷設していくバイタリティーといえるかもしれない。読む者にも骨太のキャリア観を迫る良質なドキュメントとして注目したい。

●著者:野口 均  ●発行:平凡社/2012年2月15日
●体裁:新書版/237頁  ●定価:780円(税別)

会社人生は「評判」で決まる

 人事コンサルティングを通じて,多くの好業績者とインタビューを重ねてきた著者は,職業人を保障する真の実力として「評判」の力に注目する。業績結果がよくても評判が悪ければその人は昇格できず,逆に業績が突出していなくても,例えばポジティブなムードメーカーなら組織に不可欠な存在として認知されていく。この両者の決定的な違いを本書は深く多角的に分析している。組織のなかで「評判のいい人」とは,必ずしも傑出したスキルや専門知識の持ち主ではないようだ。「任せると安心」「粘り強い」といった周囲の発言に象徴されるように,普段の仕事を着実に遂行する基本姿勢が顕著で,それが信用を築くと指摘。足下の努力を忘れ自己PRに走れば評判は落ち,所属組織に背を向けていたのでは初めから相手にされないと述べ,キャリア形成を焦ったり諦めたりする若手の動向を牽制している。「期待される本質的な役割を果たす」という大前提に加えて「評判」を高めるために何が必要なのかを身近な題材から探っていく興味深い人材論だ。

●著者:相原孝夫  ●発行:日本経済新聞出版社/2012年2月15日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:850円(税別)

精神科医が教える「心が折れない部下」の育て方

 職場ではうつ・プライベートでは元気な困った存在として注目される「新型うつ」。本書もこの新しいメンタルヘルス問題にスポットを当て,上司・人事部の予防対策法を探っている。上の世代からすると単なるワガママに映る彼らだが,背景には相当の理由もあると理解を示す。根拠の一例が少年期に徒党を組んで遊ぶギャングエイジ体験の欠落だ。理不尽な思いや葛藤を経ず未熟なまま青年期を迎えてしまった現実を捉え,「今は子供が就職する時代」とも言い当てる。しかし,未熟でダメな奴だと見限り,採用時に排除するだけでは解決せず,もはや未熟ながらも可能性を秘めた存在として認め,職場で支援していく段階ではないかとも提案している。そもそも人は先が見えないときに心が折れるとし,@処理可能,A把握可能,B有意味の3点を予防のキーワードに挙げる。すなわち,仕事の意味を理解させ,出口を見せてやれば若い部下は折れずに済むとの示唆だ。精神科医の丁寧な解説とマンガで見せるストーリー展開で,理解のしやすさもピカイチの1 冊。

●著者:笹原信一朗  ●発行:メディアファクトリー/2012年2月29日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:740円(税別)

部下育成の教科書

 本書の説く部下育成の神髄は「目の前のAさんを一人前にする」といったレベルではない。上司自身が「1対1」の指導を重ねていたのではモグラ叩きに終始し,組織全体を管理しきれないからだ。それより“後輩を育てる先輩たち”を作り,組織に育成の連鎖を構築するよう提案している。さらに最終形として,職場内に「多対多」の支援関係を機能させるというハイレベルな状態も目指している。とはいっても闇雲に取り組んだのでは収拾がつかない。そこで成長度合いを把握するモノサシとして登場するのが「ステージ」の概念だ。入社から,@スターター,Aプレイヤー,Bメインプレイヤー,Cリーディングプレイヤーの4段階を区切り,各ステージにふさわしい働きかけ(仕事の与え方,良し悪しの伝え方,支援の仕方)が有効だとする。また,ステージの変わり目(トランジション)に着目し,伸ばす行動・抑制する行動を整理するなど,成長の“見守りどころ”も公開。業種・職種を問わず汎用性のある部下育成の体系的なガイドにまとめられている。

●著者:山田直人/木越智彰/本杉 健  ●発行:ダイヤモンド社/2012年3月8日
●体裁:四六版/245頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki