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書評 2012.12

自責社員と他責社員

 書名から類推される自責社員・他責社員の比較分析にはあまりページが割かれていない。“改善は上司の仕事であって私の問題ではない”“業績が振るわないのは市場環境のせいだ”といった他責的な思考が蔓延する組織が成長できないのは自明だとの前提で,いかに経営者と管理職層が意識と行動を変えていくかを綴った内容だ。改善ポイントでは「目標設定」に注目し,まず数字以前のところで経営者自身の思いが不明確だと,現場に真意を浸透させることが難しい実態を指摘。加えて,目標のストレッチは誰にでもできるとしたうえで“ストレッチしたい”と思えるかどうかが鍵だと述べ,内発的動機に訴えるマネジメントを求めている。具体的には「しっかりやれ」「次は気をつけろ」ではなく,質問を重ね「5W2H」をクリアするプロセスを通して改善点に気づかせるコンサルティング手法を紹介する。論理的に正しくても「他」のせいにする限り「諦め」の罠に陥ると警告し,やる気を引き出して業績を挙げていく方法論を公開している。

●著者:松本 洋  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2012年9月12日
●体裁:新書版/184頁  ●定価:740円(税別)

うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ

 給与が伸び悩む若手サラリーマンを対象に書かれたサバイバル系のスタンスだが,狭小な体験談や独善に陥ることなく,経営人事理論を逆手に取った理詰めの戦略論で内容は一貫している。まず,4社に1社は昇給していない現実を示し,人件費が変動費化している実態,そして転職市場でおよその給与相場が決まっている事情を明かす。その上で,チェックリストをもとに,@普通の企業,Aブラック型企業,B業績不振型企業,C二重苦企業(AとBの両方)に分類し,それぞれの状況でいかに昇給を勝ち取っていくかを指南している。例えば,普通の会社では評価の点数を上げて定期昇給を着実に獲得していく手法を提案。また,ブラック企業では昇進によって給与を上げる方法,業績不振企業では社内異動によって昇給を実現する戦術を示す。章を改めて,業種別・職種別の特性を分析しつつ現状脱出法をアドバイスする丁寧さにも脱帽だ。経営人事トレンドから俯瞰し,利益・コスト構造を把握したうえで給与を考えるロジカルな筆運びが明解で面白い。

●著者:平康慶浩  ●発行:東洋経済新報社/2012年11月1日
●体裁:四六版/235頁  ●定価:1,500円(税別)

採用基準

 マッキンゼーにて採用・育成の専門セクションの創設を提案し,自ら担当してきた著者が体験ベースの人材論を展開している。書名の「採用基準」とは同社で求められるポテンシャルの象徴であり,本書に語られているのは「リーダーシップ」を巡る考察だ。東大卒やMBA取得者などハイレベルな応募者が集まる採用試験については,いくつかの誤解があるとも指摘。例えば,ケース面接では,もともと出題側に正答の用意はなく,知識を駆使して解を導き出す行為より“いかに考えることが好きか”を見極めるのが主旨だと意図を明かす。「地頭」の評価でも,分析力はあまり重要視せず,ゼロベースで何を構築していくかという「処方箋を書く力」を見ると解説している。序列や立場にこだわらず全体の成果のためにアイデアを提案し実行する,あるいは,材料が揃わなくてもリスクを視野に入れて決断する,といった入社後に鍛えられるリーダーシップの本質を具体的に紹介しつつ,雑用係でも調整役でも命令する人でもない,あるべきリーダーの姿を追求している。

●著者:伊賀泰代  ●発行:ダイヤモンド社/2012年11月8日
●体裁:四六版/245頁  ●定価:1,500円(税別)

サラリーマンは,二度会社を辞める。

 「石の上にも3年」「一人前になるまで10年」「40歳定年」「70歳現役」「人生80年時代」といったキャリアの節目を時系列で追いながら,中高年勤労者の「こころの定年」にスポットを当てている。パターンは人それぞれながら,40歳を過ぎると,病気,リストラ,自然災害などをきっかけに何らかの転機に直面すると述べ,著者ご自身も40代後半にうつ病に罹り,職を投げ出した経験を告白する。誰しもキャリアはどこかでつまずき,その際は一直線のレールから自由になる発想が求められるとも語る。学生から社会人への切り替えと同様,中高年期にも「通過儀礼」が訪れると覚悟を迫り,その乗り越え方をともに模索する目線だ。ただし,思考は左右に揺れ“この方法で行くべきだ”といった力強いアドバイスは最後まで示されない。「白黒を付けないことで得られる自由の余地」「例えば,会社を辞めても仕事をやめないポジション」といったグレーゾーンを例示しながら,先達の生き方の紹介などを通して,中高年読者が自ら歩むべき足元を照らしている。

●著者:楠木 新  ●発行:日本経済新聞出版社/2012年11月8日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki