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書評 2013.03

実践! 労災リスクを防ぐ職場のメンタルヘルス5つのルール

 労基法・安衛法の順守,あるいは労災・ハラスメント・過労自殺などによる訴訟リスクを前提にした従業員へのメンタルヘルスケアが注目度を増している。しかし,それが目の前の不調者対応に留まるなら,モグラ叩きにしかならないと著者は警告する。“そもそも社員のメンタルケアは誰の仕事なのか?”と読者に覚悟を迫ったうえで,体系的な取り組みアドバイスを展開している。全体構成では,「産業医・衛生委員会」「定期健康診断」「過重労働者対応」「休職・復職」「環境整備・意識付け・相談窓口」の5つの大項目ごとに計画とアクションの原則を示しつつ,個別の内容は,例えば産業医との契約時のメリット・デメリットを整理するなど極めて具体的だ。また,トラブルが多発している休職・復職を巡っても多くのページを割き,「休職規程」および療養期間中の「休職者の手引き」のサンプルモデルを掲載するなど解説を充実させている。何からどう着手すればいいのか逡巡している人事部門の方には,自社に適した的確な答えが見つかるイチオシの1冊。

●著者:根岸勢津子/監修者:中重克巳  ●発行:同文舘出版/2013年1月3日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:1,600円(税別)

これだけは知っておきたい「会社の人事」の基本と常識

 労働法と実務の両面から人事の仕事を解説した入門書。給与・社保・安全衛生,そして,採用から教育研修・異動・退職・解雇まで,仕事の目的・ステップ・注意点を網羅し充実の項目を収録している。労働時間・休日休暇・時間外労働・みなし労働時間・変形労働時間制など混乱しがちな点は手厚く,また,教育制度では,OJTとOff-JTの効果を比較整理したり,教育研修計画の立て方をアドバイスするなど目配りの利いた構成がありがたい。評価制度では,目標管理ベースの成果主義型・能力評価重視の等級型・勤続年数ベースの年功型を客観的に紹介しながら,判例に示された「年俸の下限制限」を言い添えるなど現実目線も一貫している。人事担当者に求められる能力では,数字を扱う「正確性」と,内外の関係者に幅広く関わっていく必要性から「コミュニケーション能力」を指摘。やさしい記述に加えて図解も多く取り入れていて,初めて人事の仕事に就く方,1人で人事全般を担当される方などには辞書がわりになって活用の余地も大きそう。

●著者:青池俊彦  ●発行:フォレスト出版/2013年1月17日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,300円(税別)

人事のエラい人が教える,会社で生き残る上司対策マニュアル

 著者の肩書は「名前の出せない人事部長」。表裏を知り尽くした現役取締役人事部長の立場で“クビキリから身を守る方法”をレクチャーしている。仕事ができない・命令でしか動かない・貢献度が低いといったぶら下がり社員がリストラ候補に挙がるのは当然としながら,「やりにくい・面倒になりそうな人は対象から外れる」とも明かす。一例として,職場に子供を連れてきて上司や他部門にまで挨拶させて回るケースを描写し,「愛社精神に見せかけた捨て身のリストラ防衛策」と言い当てる。あるいは,仕事ができても人気がなければリストラ候補になるとも語り,切れ味・凄味を見せるより“抜け作キャラ”で上司・ライバルを安心させて生き延びるしたたかな事例も紹介している。PIP・退職面談などリストラの手口を整理しつつ,「実はやりやすい・文句の出ない人を優先させる場合がある」と本音も漏らす。労使双方の姑息な手段が本当に有効かどうかは措くとして,「突き詰めると好き嫌いで人事が決まっている」との指摘には見識がにじむ。

●著者:塩見浩二  ●発行:ぱる出版/2013年1月25日
●体裁:四六判/176頁  ●定価:1,400円(税別)

ES[社員満足]経営の鉄則

 「社員満足(ES)」を,余裕のある企業の福利厚生策と捉えていると,その認識不足が致命傷になるかもしれない。マネジメントサイクルを逆に考えてみれば,“やらされ感”で働く社員たちがお客様満足を高めることはできず,その結果,企業業績が低迷していくのは自明だ。一方,ESサイクルが好循環で機能すれば,メンタルヘルスにもモチベーションにも良い効果を生み,結果的に生産性も高くなって業績も向上していく。本書では,有効性の高い新たなESの要素として「承認」の機能に注目し,「心の報酬」を訴求している。組織に「ビジョン」があれば働く人々の気持ちは前向きになり,加えて「将来のキャリアを考えてくれる・支援してくれる」姿勢が実感できれば会社への信頼感もさらに増すとされる。取り組みの実務では,調査のやり方から(アンケートの設計など)コツがあるようだ。また,分析結果の読み方,結果レポートの経営陣へのフィードバックの仕方も重要な鍵とされ,ES改善策以前のノウハウも詳しい解説書に仕上がっている。

●著者:志田貴史  ●発行:中央経済社/2013年2月10日
●体裁:四六版/174頁  ●定価:2,200円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki