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書評 2013.05

仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか

 ハイパフォーマーたちに「調子の出ないときにどうするか」と聞くと,「やるべきことを淡々とやる」との答えが共通して返ってくるという。その事実から,本書は“モチベーションに左右されない働き方”を深掘りする。モチベーションは,@個人の内面の問題,A私的な事情に左右される,B“気分が乗らない”など些細で贅沢な悩み,といった特性を持つがゆえに,企業研修やマネジメントの対象にはならないと割り切る。さらに,会社がモチベーション向上を公式に打ち出すことで強迫観念化し,パワハラや長時間残業等の歪みを生み,メンタル疾患も増殖させているのではないかと疑う。「手を抜かない」「仕事への心意気・誇り」といったハイパフォーマーを支える価値観に“気分”の入り込む余地はないとも見抜き,『モチベーション0.0』と名付けた独自のワークスタイルを提唱している。「やる気」に訴求するのではなく,基礎(型)を積み上げ,取り組みを習慣化し,安定した結果を出していくという労働倫理を改めて確認する視点は大いに共感できる。

●著者:相原孝夫  ●発行:幻冬舎/2013年3月30日
●体裁:新書版/203頁  ●定価:740円(税別)

改正労働契約法早わかり

 有期雇用から無期雇用への転換を定めた「改正労働契約法」について,弁護士の著者がQ&A形式で解説している。「5年を超えて反復・更新」されている有期契約の場合,労働者側からの一方的な意思表示によって(使用者側の承諾なしに)無期雇用に転換できると一般に理解されているが,具体的にどのように「その日」を待ち受けるかは案外ややこしい。例えば,「通算して5年」という条件では,空白期間の有効(無効)性を巡って「クーリング期間」の知識が必要だ。労働者の側も,契約期間満了日以降に申し込んだり,「申し込まない」と意思表示をした後で「撤回したい」と申し出たりした場合は無効になるリスクも了解しておきたい。申し込みは口頭でいいのか,書面が必要なのかといった細かいことも現実的な課題に浮上してくるだろう。また,無期雇用に転換されたとしても,他の労働条件についてはこの法律に定めがなく,事実上,従来通りの雇用が継続されると推測される。本書に盛り込まれた43項目のQ&Aは労使双方に必読の内容だ。

●著者:木村貴弘  ●発行:経団連出版/2013年3月30日
●体裁:A5版/125頁  ●定価:1,000円(税別)

「武器」としての労働基準法

 労働基準法はもともと労働者のための法律なので,“これを武器にせよ”との訴求だが,内容は一貫して客観的で,人事担当者が読んでも違和感はないだろう。強行法規をもって戦う相手は「不当・不正」であり,法令を順守している会社にとっては何ら攻撃を受ける余地はなく,むしろトラブル防止のメリットをもたらすとも述べられている。主に,賃金・労働時間・休日・退職および有期雇用・男女格差などトラブルが起きがちな諸問題を扱い,想定読者である一般従業員には「法律の名前を口にするだけでもいざというときは会社側にプレッシャーを与えることができる」と“多少のハッタリ”を示唆している点も面白い。さらに,トラブルが深刻化した場合の戦い方ではステップを踏んだ手段を紹介。いきなり「訴えてやる」と力むのではなく,多くの場合は労基署への相談や都道府県の労働局でのあっせんで解決するとして,現実的な落としどころをアドバイスしている。人事担当者の知識確認にもちょうどいいレベルの解説書であり,手にして損はなさそう。

●著者:布施直春  ●発行:PHP研究所/2013年4月1日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:860円(税別)

日本史から学ぶ「人事」の教訓

 歴史に重ねてサラリーマン社会の人事を考察する書籍はいくつか前例があるものの,とりわけ本書は史実研究の密度が濃い。「査定」「論功行賞」「選抜」「派閥」「肩書き」「団結力」と企業人事に隣接するテーマを扱いつつ,内容は『日本書紀』から説き起こし,学術的アプローチを外れない。各テーマにつき古代・中世・近世の3つの時代に区切って題材を求め,それぞれ専門の著者が担当する本格的な構成だ。もちろん,義経と頼朝の確執や信長・秀吉・家康の対比などおなじみの人物・逸話も取り上げているが,“幕末ヒーロー”には触れず,その分,「大化の改新」をはじめとする古代史の攻防を充実させている。武力を持たない朝廷・公家が官位を操ることで実力者を動かそうとし,その官位を利用することで政権の維持拡大を図ろうと武家勢力が動く――人事の真骨頂はそんなところにあるのではないかとの印象も得られる。歴史のターニングポイントとなる構造改革と人の動きをつぶさに検証するなど,歴史マニアの好奇心もくすぐってあまりある1冊。

●著者:遠山美都男/関幸彦/山本博文  ●発行:宝島社/2013年4月26日
●体裁:四六版/272頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki