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書評 2014.01

怒る技術 怒られる技術

 「叱るのはいいが怒ってはいけない」「短気はダメ」などとよくいわれるものの,あえて著者は「怒ることは悪くない」と力説する。改善を要する諸問題はこちらが黙っている限り相手は気づかない(ふりをする)わけで,怒りの感情を適切に伝えてこそコミュニケーションも成り立つと正論を述べている。「叱る」行為が主に上司から部下への指導に限定されるのに対し,「怒り」のコミュニケーションは部下から上司の場合もあるし,同僚同士,お客様同士(行列への割り込みなど)のケースもある。ただし,本書が説くのは適切なコミュニケーションなので,一方的にキレたり,腹立ち紛れに不機嫌をまき散らしたり,人格を攻撃したりする行為は容認されない。“怒るか怒らないか”“どんな怒り方をするか”の2点を瞬時に判断し,その真意が相手に伝わったかどうかまで読み取る冷静さ,余裕,さらにはふだんからの謙虚さも求めている。相手あってのコミュニケーションであり,怒るほうも受け止める側もスキルを鍛える必要があるとの指摘には改めて納得させられる。

●著者:福田 健  ●発行:日本経済新聞出版社/2013年11月18日
●体裁:四六版/255頁  ●定価:1,500円(税別)

日本の会社40の弱点

 企業のグローバル展開を支援している著者は,様々な会社の外国人社員たちから日本の職場に対する違和感を聞かされるという。そこで,日系企業の現地社員・日本への出張者・出向者・留学就活生・新卒社員ほか外国人から漏れ聞かれた「日本企業のヘンなところ」を40のミニ事例に編集したのが本書だ。「部長に相談を持ちかけたら突然目を閉じて黙ってしまったので,これが瞑想かと思った」「腹を割って話すというので切腹するのかと焦った」などはコミカルだが,笑い話では済まない例もある。「お客様は神様ですとの訓示に宗教観の違いから現地社員らが一斉反発した」は深刻だ。また,マネジャー経験のない日本人が上司として駐在してきて能力不足を露呈しているとか,いちいち本社に確認をとって仕事が進まないといった人事課題への指摘,あるいは「個性的な人材を求めるといいながら画一的な採用方法だ」との批判も厳しい。素直に面白く読めてしまうのだが,「違い」を理解して「許容する文化」にまで高めようというのが著者の最終的な訴求のようだ。

●著者:小平達也  ●発行:文藝春秋/2013年11月20日
●体裁:新書版/199頁  ●定価:720円(税別)

マタニティハラスメント

 女性が働きやすい社会を目指して子育て支援策が拡大している……などと総論賛成的な理解をしていると,本書を読んでガツンとやられる。引用紹介されている調査によれば,出産を前後して4人に1人は職場でマタハラを経験しているという。雇用・労働条件での不利益な扱いは法令違反であり,紛争に発展しても解決の目安は明確だ。対してややこしいのは,周囲の女性たちがイジメの加害者になってるケースだ。例えば育児期間の短時間勤務にシフトしたとしても「権利ばかり主張して仕事をやっていない」「アテにならないので仕事を回せない」といった軋轢が起きる。短時間勤務は当然の権利だと求める女性社員の声に「甘えるんじゃない」と怒鳴り返した女性役員もいたとか。国民的大論争に発展している諸課題に,企業の人事部はどう対応していくのか。「3年抱っこし放題」(育休3年延長政策)では,会社は復帰時の配属先に困り,本人もブランクが致命的になる。まずは,著者が取材を通じて集めた諸事例から建設的なヒントを共有したいところ。

●著者:溝上憲文  ●発行:宝島社/2013年11月23日
●体裁:新書版/224頁  ●定価:752円(税別)

40歳からの会社に頼らない働き方

 平均寿命が延びている今,40歳・50歳は「これから」のポジションだと著者は語る。一方で,法律が65歳までの雇用を義務づけても会社や事業が何十年も存続する可能性は疑わしいとも指摘している。そこから導かれるのは自律的な働き方だ。「2年後クビになるかもしれない」くらいの時間軸で常にコンティンジェンシープラン(状況対応型計画)を練っておく理想モデルを示しつつ,現実感を持てない事情も了解し,バーチャルカンパニーを組織して動いてみるやり方を提案している。能力や出世に限界を感じるのは狭い社内にこだわるからであって,閉塞感や挫折感は考え方,動き方次第でチャンスに変わるとアドバイスを展開する。IT化やグローバル化で環境変化が激しい今は「1つのことに集中する」より「いろんなことをやってみる」ほうがリスクが低く,「今までこれだけやってきた」と過去を振り返るより,「これから先は何をするのがプラスか」と未来志向で考えたほうが可能性は広がると,日本型中高年のメンタリティーに変革を迫っている。

●著者:柳川範之  ●発行:筑摩書房/2013年12月10日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:720円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki