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書評 2014.12

「かまってちゃん」社員の上手なかまい方

 “自分は周囲から大事にされていない”と感じ“かまってくれなきゃイヤだ”とばかりにこじれる問題社員を本書は「かまってちゃん」と名付けている。「やる気が出ない」「会社に行けない」「上司が悪い」「希望が通らない」「会社はブラックだ」「パワハラだ」と他責的な言動を示すことが多く,承認欲求が満たされずに強烈な不満を抱いているケースが典型だという。原因をさかのぼれば,反抗期を封じられた親子関係,競争を避けてきたゆとり教育,生身の対話を必要としないネット社会などが疑われると分析しつつ,現実問題としては,こじれる前に上手にかまってあげる手段が有効だと述べている。そのカギは,雑談や飲み会を含むコミュニケーションの促進,会話時の傾聴の姿勢,毎日のあいさつといった基本にあるようだ。書名のユルさから問題児を茶化すような軽さを想像するかもしれないが,実質は,「産業カウンセラーが解説する“うつ社員”発生予防ガイド」とでもいうべき真面目な内容であり,職場を預かる皆様に一読をお勧めしたい。

●著者:大野萌子  ●発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン/2014年10月15日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:1,000円(税別)

女性が活躍する会社

 「2020年までにリーダー的立場の女性を30%程度にする」と事実上の国際公約を掲げた日本で,各企業は具体的に何をすべきなのか,本書は歯切れのいい見通しを示している。よくいわれる「ロールモデルがいない」との課題に対しては,現在活躍している女性エグゼクティブたちとは環境が違いすぎるので,モデルがいなくて当然だとの認識を示す。そのうえで,話を聞くだけのメンターではなく,影響力を発揮し直接任用を後押しするスポンサーが必要だと提案する。また,「3年抱っこし放題」のような政策では,子育て支援にはなってもキャリア支援にはならないと疑問視。「子育て期間だから短時間勤務」「短時間勤務だから低い査定」といった思考停止した人事管理にも問題があるとして,フルタイム勤務と子育てが両立する仕組みを目指し,男女関係なく残業を前提としない職場を実現すべきだと正論に立ち返る。本書に示された入社前段階から女性エグゼクティブ誕生までのキャリア支援の全体像は,人事制度の設計にあたって参考の余地大だ。

●著者:大久保幸夫/石原直子  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年10月15日
●体裁:新書版/184頁  ●定価:830円(税別)

人事評価の「曖昧」と「納得」

 「評価の納得感」を扱った学術系の考察ながら,ヒアリングの過程でナマの声を多く拾っているせいか,論点整理の着眼がユニークだ。すなわち,制度の完成度を高めたり評価者のスキルを磨いたりしても,従業員の納得感を高めるには限界があると,著者は早い段階で見切りをつけている。その一方で,評価制度が一定の安心感をもたらし,秩序維持を支えている作用に注目し,納得感との関係解明に挑んでいる。通常業務が普通に進む職場では白黒のつけようなどなく,大半がグレーゾーンに収まる現実を捉え,その曖昧さゆえに不公平感・不満は最小化されていると推測。さらに,「仕事を選べない立場で評価の高低に一喜一憂してもしょうがない」といった従業員らの肉声を頼りに,仕事への充実感を自負していたり,周囲から承認を得ていたりする場合は,低い評価でも適応する実態を構造化してみせている。人事評価の目標は「多数派の不満を解消し,全員を『不満とはいえない』水準以上にまでもっていくこと」と導かれた結論には,読者も納得せざるをえない?

●著者:江夏幾多郎  ●発行:NHK出版/2014年11月10日
●体裁:新書版/199頁  ●定価:740円(税別)

ニッポンの規制と雇用

 本書でキーとなる単語の1つが日本の「内部労働市場システム」だ。企業が福祉の要素まで丸抱えにしてきたおかげで,失業率は低く抑えられ,社会的コストも軽減できていたとバブル崩壊までの時代を俯瞰している。しかし,その前提には経済成長があったとして,産業構造が変化する今,雇用不安が顕在化するリスクを示唆している。ただし,内部労働市場システムは長時間かけて自然に形成され根付いており,すぐに転職市場が取って代わるほど社会は変わらないジレンマも指摘する。加えて,矛盾に直面するたび様々な規制を求める日本社会の特殊性に言及し,複雑化した雇用問題の真相を読み解いている。その過程では,業界を守る規制(発展促進,雇用維持)と,取り締まる規制(法令遵守,活動制限)のバランスや,世論感情への配慮に苦労する役所の事情も明らかにしている。とりわけ,著者が勤務していた旧労働省時代の逸話(労働基準監督局と職業安定局のスタンスの違い,審議会運営の裏話など)は面白く,リアリティを伴って理解が進みそうだ。

●著者:中野雅至  ●発行:光文社/2014年11月20日
●体裁:新書版/269頁  ●定価:840円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki