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書評 2015.11

社員の潜在能力を引き出す経営

 内外の経営環境が劇的に変化している現在,日本企業が旧来より得意としてきた高規格型(正確・迅速・均質)の人材では対応が難しいとの前提で,著者は,これからの人材活用の見通しを示す。従業員インタビューから「モチベーションの天井」という課題を見出し,いかに突き抜けるかを多角的に探っている。その過程では,濃すぎる人間関係が人を“サボりもせず頑張りもせず”という不活性状態に陥らせ,また,細かすぎる管理が人を萎縮させ本来の能力発揮を妨げていると分析。すでに壁を突破している各界のハイパフォーマーらの共通項から「内発的動機」「承認」「外へ向かう働き方」の3つを鍵に挙げ,モチベーションを青天井にし,個人もチームも従来以上の成果を発揮できるようにする具体策に踏み込んでいる。人事施策に換言すれば「組織フラット化」「社内FA」「ダイバーシティ」といった取り組みであり,さらに,サラリーマンの働き方は自営業に近づくとも述べ,副業,独立,場合によっては出戻りも肯定する人事方針への転換を示唆している。

●著者:太田 肇  ●発行:中央経済社/2015年10月3日
●体裁:四六版/198頁  ●定価:1,800円(税別)

ワーキングピュア白書

 25歳世代の労働意識・労働環境を調査研究するプロジェクトが連合と共同でまとめた1冊。25歳を「仕事とは何かと自問しながらコツコツ前向きに働く世代」ととらえて「ワーキングピュア」と名付けている。PART1では,若手のナマの声,PART2では少し上の世代のキャリア紹介とアドバイス,PART3では,プロフェッショナルのキャリア観を探る構成で,球界から古田敦也氏,映画界から周防正行氏が登場。若手のリアルでは,「ブラック企業」というほど極端ではないものの,給料が安く,休みが取れず,肉体的負担も重く,パワハラ上司に困るといった疲弊する現実が描かれている。安定した大企業勤務でも組織構造的な矛盾や理不尽を目の前にして成長できない焦りを自覚するなど,「将来に対する不安が大きい」という点で世代の悩みは共通していた。これに対し,上の世代からは「自ら手を挙げる」「自分から発信する」「失敗に向き合い,失敗から立ち直る力をつける」といったアドバイスが語られ,「我慢しない」強さを求める声が寄せられている。

●編著者:プロジェクト25実行委員会  ●発行:日経BPコンサルティング/2015年10月5日
●体裁:四六版/216頁  ●定価:1,500円(税別)

科学的手法で絶対に成功する採用面接

 本書が解説しているテーマは,ずばり「コンピテンシー面接」だ。面接官の直感や名人芸で「さわやかでよさそうな人」「オーラがある人」「自分の部下にしたい人」をバラバラに採用していたのでは,早晩ミスマッチが起きるとし,思い込みの誤りを排した採用手法を理詰め,かつ丁寧に解き明かしている。要点は,「応募者の行動事実を見ること」に尽きる。「あなたにリーダーシップはありますか」ではなく「その状況であなたは何をしましたか」と聞く。さらに,人の行動には再現性があるという前提で「ほかにはどんなエピソードがありましたか」と質問を重ね,連続性のある行動特性を把握していく。そうやって明らかになった過去の行動は,入社後の将来の行動をも予測するとの法則を示し,組織が求める人材像と入社後の活躍との誤差を最小化するノウハウを具体例を交えて開示している。漠然と「いい人」を求めては当たり外れを繰り返して伸び悩んでいる会社があるとすれば,本書をもって人材の課題はすぱっと氷解する可能性が高い。

●著者:伊東朋子  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2015年10月14日
●体裁:四六版/246頁  ●定価:1,600円(税別)

小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方

 約350社の中小企業で試行錯誤を重ねて築き上げてきた評価と育成の仕組みを「ビジョン実現型人事評価制度」と名付け,読者企業ですぐ応用できるよう親切なガイドにまとめている。経営理念をゴール,経営ビジョンを中間目標と位置づけ,定量・定性の2方面から計画的に組織に落とし込んでいく方法論で,シンプルながら抜け道のない確実な展開が期待できる内容だ。評価制度の設計ではグレードを定め,業績・成果・能力・情意の目標項目(=評価項目)に整理し,職責・戦略項目に応じてウェイトを配分する手順を公開。また,運用面では,直属の上司・その上の上司・コーディネーター役の3者で構成する「育成会議」,上司・部下間の「育成面談」,チャレンジシートを基に1人10分程度のコミュニケーションを図る「毎月コツコツ面談」などの工夫を組み込んでいる。ここまでを3回にわたってトライアル実施し,そのうえで従業員の「納得度アンケート」の結果を見て本格スタートさせる慎重さも特筆的だ。シート類が収録された付属のCD-ROMもありがたい。

●著者:山元浩二  ●発行:あさ出版/2015年10月21日
●体裁:四六版/221頁  ●定価:1,600円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki