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書評 2017.02

職場がヤバい! 不正に走る普通の人たち

 経理に特化したコンサルティングで様々な企業を見てきた著者は,本書に「不正」の実態を明らかにしている。主に,心理状態と組織体制の2方向から考察を加え,普通の社員が何らかのきっかけで不正に手を染めてしまう真相をトレースしている。人の問題では,反抗的な言動が突出していたり,挙動がおかしいなど“いかにも”というタイプは周囲のチェックが働いているので不正は少ないと明かす。対して,従順で目立たず不器用そうな“いい人”に限って水面下で不正を働くケースがあり,周囲もノーマークゆえに,露見したときには「まさか」と驚く結末になると報告している。伝票操作などのテクニカルな手口とともに,一声かけて目の泳ぎ方を見るといったチェックのコツも公開。「放任」と「取り締まり」の間の「けん制」の効果を説き,歯止め策を探っている。不正を働くのに強い意志はいらないが,不正をしないためには強固な信念が伴うとも語り,メンタルの要素にも踏み込む。いずれの指摘も人事部門の視界に入れておきたい重要テーマだろう。

●著者:前田康二郎  ●発行:日本経済新聞出版社/2016年12月14日
●体裁:四六版/261頁  ●定価:1,600円(税別)

中小企業の「人事・賃金制度」はじめに読む本

 本書に推奨されている人事制度の基調は,「期待する社員像」を明らかにし,諸制度との整合性を図ることで社員の成長を高めていくベースが築かれる,というものだ。これが実現すれば結果的に経営者が望む成果も生み出され好循環サイクルが動き出すとされる。新しい制度の提案に先立ってはおよそ15年間隔で人事トレンドが変化してきた流れをとらえ,生活給・年功給・職能給・業績給を経た今は役割給の時代だと再認識を図る。あるべき制度では,育成型・公正運用・能力の明確化の3点がカギになると述べたうえで,行動(Action)の音をとって,コンピテンシーに似せた「アクテンシー(役割行動)」の概念を打ち出している。実践編では導入・移行法を詳述し,「役割行動考課表」のサンプルも掲載している。ややもすると複雑に入り組みそうなテーマをすとんと腑に落ちる歯切れの良さで整理し,また,左に文字解説,右に図解という2ページ単位の構成も,全体像を視覚的に把握する助けになり,読者にとってはありがたい仕上がりになっている。

●著者:堀之内克彦  ●発行:すばる舎/2016年12月25日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,650円(税別)

すごい上司

 どの職場でも見られがちな“ダメな上司”と対比させることで“デキる上司”のあるべき姿を探った1冊。「仕事(できない・できる)」「人徳(ない・ある)」「女性(嫌われる・好かれる)」「出世(できない・する)」「部下(逃げ出す・信頼される)」の5分類・計40にわたるエピソードには,いずれも著者が見聞したモデルの存在が推測される。そのリアリティゆえ,読み進めるに従って,ダメとデキるの違いが微妙であり,シーンによっては自分もダメ側ではないかと不安感に襲われる。実際,著者は「微差の積み重ねがいつしか評判のかたちで大差を生む」と恐ろしい予言を語っている。従って,タイトル「すごい上司」とは,他を圧倒するスーパーヒーローではなく,情熱や責任感を秘めつつ,普段はやたら前に出たがらず,部下を見守る目線はブレず,いざという瞬間は闘いをためらわず,さっと出世していく“スマートな上司”という程度の認識で落ち着くと思われる。自らの挙動を振り返りながら,いろいろ考えさせられそうな案外ヤバい内容だ。

●著者:新井健一  ●発行:ぱる出版/2017年1月11日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,400円(税別)

クラッシャー上司

 産業医経験も豊富な精神科医の著者は,「部下を精神的に潰しながら,どんどん出世していく人」を「クラッシャー上司」と定義し,この問題を15年にわたって研究してきたと語る。広義にはパワハラながら,粗暴な挙動とは異なり,自分は正しいという確信と同時に,他者の苦痛には鈍感であるという共通した特徴を指摘している。例えば,理詰めで部下を追い込むケースでは,返答に窮した相手が泣こうが詫びようがお構いなしに仕事の完遂を問い続ける姿が描かれている。その結果,真面目な部下ほど応えようとしてすり切れてしまう。こうした例では上司の側に強迫的パーソナリティが認められたり,未熟性が潜んでいたりすると分析し,目の前にクラッシャー上司がいたら,上から目線で心情を理解してやり,受け流すのも1つの手だと対処法を示唆する。また,組織的な歯止めのカギはCSRとコンプライアンスだと導きつつも,会社が利益を優先し,同僚らが被害者を助けない現実を踏まえ,最終的には教養に行き着くだろうと興味深い論点を投げかけてもいる。

●著者:松崎一葉  ●発行:PHP研究所/2017年1月27日
●体裁:新書版/205頁  ●定価:820円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki