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書評 2017.05

フィードバック入門

 上司が部下に対して評価・指導を行う「フィードバック」につき,著者は「耳の痛いことを部下にしっかり伝え,彼らの成長を立て直すこと」とかみ砕いて定義する。期末面談に限らず,日常的に何かあったらその場で実施するほうが効果的だとも述べ,マネジャーに対しては痛みを伴っても正しく対峙する覚悟を迫っている。フィードバックに先立っては,日頃からの情報収集が前提になるとし,S(シチュエーション)・B(ビヘイビア)・I(インパクト)を把握するよう求める。また,厳しいことを言う場では「君にはいい部分もあるよ」など無駄に褒めて効果を台無しにしないよう釘を刺す(言われた側はポジティブな要素だけを受け入れる傾向があるため)。言い訳をする,話をすり替える等の想定される部下のアクションもタイプ別に分析し,いかに本題に戻して理解させるかを解説。繰り返しても行動変容がない部下には,外科手術もやむをえず,配置転換や降格など血生ぐさい人事制度とセットで運用する合わせ技も視野に入れて,育成の徹底を訴求している。

●著者:中原 淳  ●発行:PHP研究所/2017年3月3日
●体裁:新書版/249頁  ●定価:870円(税別)

出世と肩書

 新聞記者である著者が自らの取材経験も織り交ぜて,様々なヒエラルキーを考察した1冊。@民間企業,A官公庁,B政治(永田町),C叙勲,D外資系の5つのジャンルに大きく分けて,各界特有の肩書事情を解説している。例えば,金融機関の「○○役(調査役・審査役・参事役・審議役)」などは一般には序列順位が分からないのでちょっとしたトリビア知識になりそうだ。また,国家公務員の号俸規定と各省庁の役職を横断的に振り分けて整理することで,事務次官・自衛隊統合幕僚長・警察庁長官が同格であったり,警視総監がその1つ下だったりする格付けを可視化している。出世を巡っては,経営者列伝に模して栄枯盛衰ぶりを描く一方,公務員の天下り,公用車活用,住宅補助のほか,「女性初」の役職登用の裏話にも触れている。ただ,いずれの立場も,引退したとたんに年賀状は減り,ケータイの連絡先からは削除され,情報も入らなくなる。よって,その後の長い人生を思えば,名刺なしでつきあえる友人を大切にすべきだ,というオチにまとまるようだ。

●著者:藤澤志穂子  ●発行:新潮社/2017年3月20日
●体裁:新書版/224頁  ●定価:760円(税別)

いらない部下,かわいい部下

 かつて太鼓持ちや腰巾着のキャラクターが「かわいい部下」を象徴していた時代があった。どんなに高い成果を挙げても,かわいくない部下は評価されずむしろ排除される運命にあったという。しかし今は,まずは成果を挙げる部下を上司は求めているとビジネストレンドの変化を著者は解説する。成果を挙げたうえで,問われるのが,かわいいかどうかという基準であり,そのかわいさとは「フォロワーシップの発揮だ」と説明している(本書ではやさしく「健全なイエスマン」とも表現している)。一方,同じ人物でも職場環境や上司の価値観が替わると「かわいい部下」から「いらない部下」へ位置づけが代わり,またその逆も起こりうると指摘し,人事の機微を描写している。さらに,部下の側も誰にどう接するかで実質的に上司を選んでいる心理に着目。両者の複雑な関係性を昇華させるプロセスから「自律的キャリア」の重要性を導き出している。安泰のポジションなどありえない今,上司も部下も受け身では生き延びられないという結論に行き着くようだ。

●著者:新井健一  ●発行:日本経済新聞出版社/2017年4月10日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:850円(税別)

なぜ,残業はなくならないのか

 「残業問題」がメディアの俎上に載るとき,多くは“感情論”に置き換えられ,改革すべき本質が見失われがちになると著者は警戒している。すなわち,本当に論ずべき課題は,「ダラダラ残業が蔓延している」「上司がいると帰りずらい」といったグチではなく,量の面でいえば,業務の繁閑事情や納期の厳しさ,人員不足等の産業構造の要因ではないかと訴えている。また,質の面では,人に仕事を割り当てる日本的雇用システムが「仕事の終わりを見えなくする」要因の1つではないかとも疑っている。人員を増やすにも単に人件費だけではなく,採用費,教育費,必要な熟練期間などもコスト要因になるとし,著者独特の鋭角な指摘は,小手先の職場改善ではなく産業構造を変えるような抜本的にインパクトのある「改革」の必要性に及ぶ。個人的な残業体験やタイムマネジメントのノウハウはともかく,顧客を選び,受注ルールを決め,仕事量をコントロールする一部企業の動きやインターバル制を紹介しながら解決策の糸口を探る論考は注目に値する。

●著者:常見陽平  ●発行:祥伝社/2017年4月10日
●体裁:新書版/251頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki