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書評 2017.10

九十歳まで働く!

 80歳を過ぎた今も現役でエグゼクティブサーチ事業を営む著者は,体験ベースの職業観を本書に語っている。少なくとも90歳,できれば100歳まで計画的に楽しく働こうという前向きな提案が執筆の動機だというが,実は,約40年にわたるソニー在職時代の内幕話が尽きない。そもそもご本人はソニーに2度中途入社するという異色のキャリアをお持ちで,本社幹部および子会社社長時代に身近で見聞きしてきた役員人事の機微を実名で述懐している。60代でグループ外の企業へ再就職活動を始め,新卒と一緒に働く道を選び,まもなくその会社の子会社社長になって結局辞める。68歳で人材業を起こし,数年でリーマンショックに見舞われて事業清算を考え,でも人との縁があって思いとどまり……とキャリア同様に逸話は前後左右に飛ぶ。ビジネスマン(男女)の人生は長くなっているという前提で,20代〜60代が前半,60代〜90代までが後半くらいの時間軸を推奨し,後半戦の面白さを自在に綴っている。読者としては先人の奮闘物語を素直に楽しむほかないだろう。

●著者:郡山史郎  ●発行:ワック/2017年7月28日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:920円(税別)

仕事消滅

 AIとロボットが進化し人間の仕事を奪うと危惧される「テクノロジー失業」の問題を,経済学の立場から解説した1冊。技術的な話では,AIがディープラーニングを習得した時点で加速度的な革新が起きているとの認識を示し,人間より賢い“AI上司”の出現を予測している(そのとき管理者は,AIの指示に従って「上司」の役を演じるだけの存在になるという)。労働分野に限定せず,テクノロジーと市場原理の説明も充実していて,読者の知識も一段と広がる構成だが,最大の読みどころは「ロボット経済三原則」の提案ではないだろうか。富の集中,富の再配分,仕事の再配分といったジレンマを視界に捉えたうえで,ロボット利用権を国有化し,@ロボットの労働に給料を払い,Aその給料を国がプールし,B国民に等しく還元する,というユニークな仕組みを打ち出している。やがて来る時代は,失業拡大によるディストピア(破壊的未来)か,労働の負荷から解放されるユートピアか。著者とともに経済システムをシミュレーションしながら読み込みたい。

●著者:鈴木貴博  ●発行:講談社/2017年8月17日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:840円(税別)

6時だよ 全員退社!

 富士通グループで,日・欧,大・小,社員から経営者まで様々な職場体験を積み上げてきた著者は,日本の会社にはまだまだ無駄が多いと指摘する。働き方改革で早く帰れるようにするには,生産性を上げると同時に付加価値の高い仕事を生み出すしかないと課題を2つに絞り,特に一定の裁量権を持ったマネジャー層の意識と行動を変えるようアドバイスする。具体的には,定例会議,ホウレンソウ,電話取り次ぎ,CCメールなどいらないタスクをばっさり切り捨て,目標設定力と質問力を磨いてチームを適切に管理し,業務効率を高めていく方策を公開。メール処理や資料作り,謝罪訪問などに終日追われてただ忙しく働いているだけでは付加価値はゼロであり評価もされないと,発想の転換を迫っている。対して,期待を超えるような部下のアイデアを大切にし“考える組織”を築き上げ,価値の高い仕事を生み出していければ,結果的に残業時間も減らせると述べ,全員が6時に退社するための方法論と働き方改革のメッセージを歯切れよく整理してくれている。

●著者:田中健彦  ●発行:日本経済新聞出版社/2017年8月23日
●体裁:四六版/287頁  ●定価:1,600円(税別)

知識ゼロからのモチベーションアップ法

 “やる気研究”の第一人者である著者は,個人の心の部分だけをいじっても限界があり,それより「行動パターン」とそれを促す「仕組みづくり」が向上の鍵になると述べている。モチベーションに影響を与える諸要素のうち,特に,組織・集団・人間関係に着目し,その点でマネジャーや人事部門の関与余地は大きいと示唆する。今は「量のがんばり」を激励する時代ではなく「質のやる気」が重要だとの認識を得て,自発的・持続的なモチベーションをいかに引き出すかを図解。@夢・志,Aキャリア形成,B行動する勇気,の3つが機能していれば,やる気は自然に沸くという前提で,それを阻害する足かせの1つに「人事考課」を挙げる。従来のように川上(働きぶり・がんばり)を管理しても“見せかけ”が横行するだけであり,川下(成果)の管理に一元化してはどうかと提案し,細かい評価を廃して単純化した人事考課表のサンプルも掲載している。マンネリに陥った中堅の皆さんには7項目にわたって示された「やる気再燃計画」も刺激になるはずだ。

●著者:太田 肇  ●発行:幻冬舎/2017年9月5日
●体裁:四六版/144頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki