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書評 2018.10

働く女性 ほんとの格差

 日経新聞の女性面や「Wの未来」を担当してきた著者は,長期にわたり働く女性たちの本音や企業事例を収集してきた。それらの情報をベースに改めて「女性活躍推進」の真相を探ったのが本書だ。女性管理職を増やしたり両立支援策を導入したりしても,働く女性の7割が実感を持てない背景には,様々な軋轢や齟齬が垣間見られる。「ガラスのハイヒール」で積極登用されても,実力を備えた同僚からは「上げ底女子と一緒にされたくない」と思われてしまう。育休社員のしわ寄せを負う独身者に「いずれ君だって」という説得が成り立たない時代。育休のフル消化や頻繁な早退といった特別扱いに対し「産んだ者勝ち」との怨嗟の声も聞かれるという。ただ,当事者にも苦しい事情はあり,残業や出張ができない結果,成績を残せず,「夫が協力的なら」「実家が近ければ」「シッターが雇えれば」と焦燥感を募らす姿も描写されている。“女性活躍で皆が幸せに”という夢のような話はありえず,国も企業も覚悟をもって克服すべき課題だと再認識を迫っている。

●著者:石塚由紀夫  ●発行:日本経済新聞出版社/2018年8月8日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:850円(税別)

「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?

 新興企業が若者を大量採用し使い捨てにする「ブラック」とは異なり,社員らが自社を誇りに思っているような一流企業でも,違法残業や過労死が頻発する状況を捉え,著者は「ブラック・アンド・ホワイト企業」という新たな概念を提起している。ブラックとホワイトの両面を併せ持つその存在は,実は大手企業の大半があてはまり,本書に綴られた考察はそのまま「日本企業論」として総括できそうだ。諸外国を視野に入れて客観視するとき,定期採用も新入社員研修も特異極まり,また,歴史を俯瞰すれば,従業員組合が形成された頃から「共同体的上部構造」が支配的となって今日の姿に至っていると読み解く。24時間の企業戦士が自らの至らなさを詫びて命を絶つ異常さも指摘し,ときに合理性を無視して精神主義に傾く日本社会の病的な価値観を再生産させる根深い関係性を見出している。また,そうであるなら内部からは問題の認識すら困難だと確信し,例えば過労死防止では罰則規定を伴う法改正が第一歩になりうると,外部からの規制強化を提案している。

●著者:野村正實  ●発行:ミネルヴァ書房/2018年8月30日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:2,500円(税別)

最高の働きがいの創り方

 GPTW「働きがいのある会社」ランキング第1位受賞でも話題のIT企業コンカー。「人材こそ最大の経営戦略」と掲げるその真意と活動状況を社長自らが語っている。同社の「働きがいを高めるオペレーション」は8つの視点(@戦略の可視化・実行,Aモニタリング・フィードバック,B認知・感謝,C連帯感・コミュニケーション,D人材採用,E人材開発,F人事評価,G働きやすさ)で整理できるとしたうえで,個々の具体策・実践事例を詳しく解説する構成だ。ミーティング機会(合宿・面接・会話)の重視,ランチや部活への積極的関与,妥協しない採用方針,成長と公平性を訴求する「ジョブグレード制」など注目点は尽きず,いずれも先進的施策に映るが,ご本人は「流行の制度に振り回されたくない」と述べ,1つひとつの制度や仕組みに込められた同社ゆえの必然性,合理性を明らかにしている。立ち上げ当初(2011年)の「暗黒時代」を反省し,決意を持って会社を変えてきたというノウハウの蓄積であり,内容は熱く,見た目も厚い1冊。

●著者:三村真宗  ●発行:技術評論社/2018年9月22日
●体裁:四六版/320頁  ●定価:1,780円(税別)

劣化するオッサン社会の処方箋

 階層意識が強く,過去の成功体験に執着し,異質に対して不寛容・排他的な人物像を象徴的に「オッサン」と呼び,組織劣化の構造を明らかにしつつ,ガラポン革命の可能性までを探った刺激的な論考だ。暴力・隠蔽・改ざん・偽装・横領……と事件を列挙するまでもなく,組織の劣化は不可逆的に進行し,世代が変わるごとにリーダーのクオリティは下がると宿命論を展開。とりわけ直近の諸事件は,引退した前世代(教養主義)と,台頭する次世代(実学主義)の間の知的真空世代(大学レジャーランド・バブル体験組)が権力を握った結果引き起こされていると見て,中堅・若手(40代以下)による“革命行動”を誘う。権力者へ圧力かける武器は,オピニオン(「おかしい」と意見を言う)とエグジット(権力者の影響から脱出する)の2つだと説き,個人は知的資本(汎用性の高い知識・スキル)と社会資本(社外を含めた信用・評判)を強化してモビリティ(いつでも出ていける力)を身に着けよとアジる。これはもはや新たな革命理論の誕生といっていいだろう。

●著者:山口 周  ●発行:光文社/2018年9月30日
●体裁:新書版/213頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki