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書評 2019.02

人が集まる会社 人が逃げ出す会社

 業績数値を最大に上げても,人材定着率の悪い企業に未来があるかどうかは疑わしい。一方で,利益第一には価値を置かず人を大事にして中長期の成長を維持している会社もある。この両者の違いにつき著者は,人の心を「冷やす」か「温めるか」の差だと言い当てる。人材定着率は必ずしも労働条件(給与・休日・残業時間,等)の整備状況には比例せず,冷やす会社は「働き方改革」を掲げ残業削減を至上命令にしても,かえって雑談の余地もなくなり人間関係が断たれ,時間に追われサービスのクオリティが下がり,顧客を裏切る悪循環に陥ると失敗例を挙げて警告している。対して温める会社には「良心」の発揮しやすい環境が醸成されていると描写し,細かいルールではなく,フェイス・トゥ・フェイス,多様性重視のコミュニケーションをベースに,顧客に喜ばれ,やりがいを感じる関係が機能していると解説。人は「良心」の通りに行動できたときに「快」を得るという法則を見出し,働くことで得られる体験と感情を重視した,人の集まる経営を勧めている。

●著者:下田直人  ●発行:講談社/2018年12月13日
●体裁:新書版/175頁  ●定価:820円(税別)

なぜ,結果を出しているのに評価が低いのか?

 300社以上の人事に関わり,1万人以上を相手に面談・相談を担当してきた著者は,どの会社でも社員に求める評価基準はほぼ共通していて,それは「成果」と「行動」だと指摘する。そのうえで,業務成績は悪くないのに評価会議の場で問題視され昇格が見送られる残念な典型例をいくつか挙げ,行動のベースとなる「性格(パーソナリティ)」に注目。4分類(ワークスタイル系,コミュニケーション系,エモーション系,ストレス耐性系)および34のパーソナリティから構成された独自の自己診断チェックシートを本書に公開し,「強み・弱み」の把握を読者に促している。性格に「良い・悪い」はないという前提に立ちつつ,職種や組織・人間関係によって相性はあるとも認め,自身を客観視し,意識的に行動を変えていけば,どんな性格も武器にできると諭す。一例として,自信のある人と自信過剰な人の違いを切り口に,強みと弱みが表裏一体である関係を解き明かし,他者から見える自分を知ることで,コミュニケーションに役立てる術を伝授している。

●著者:西尾 太  ●発行:日本実業出版社/2018年12月20日
●体裁:四六版/271頁  ●定価:1,400円(税別)

役職定年

 役職定年(55歳)・定年(60歳)・再雇用終了(65歳)という3つのタイミングを意識したとき,その10年,同じ会社に居続けることで未来は拓けるのかと著者らは疑う。現場第一線の仕事に戻れる楽しさはあるかもしれないが,本人も周囲もかつての立場を知っている人間関係を考えれば,苦労するのではないかと,いくつかの匿名の声を挙げて問いかける。加えて65歳以降の年金支給額を憂うくらいなら,70歳でも80歳でも元気に働けるライフプランを早い段階で考え,行動に移してみるべきだとも示唆。国が進める残業削減も副業解禁も,知識や経験のブラッシュアップを促しているとして,学び直し(リカレント)のインフラおよび活用事例を紹介しながら,「2枚目の名刺」を持つ意味を解説している。定年も役職定年もないエイジフリーで活躍できる理想を見据えつつ,キャリアは自ら組み立てる時代が到来しているとの認識を示し,会社に残る以外の様々な可能性を(遅くとも)55歳の役職定年を機に考え,腹を決めてはどうかと提案している。

●監修:野田 稔  ●著者:河村佳朗/竹内三保子  ●発行:マイナビ出版/2018年12月31日
●体裁:新書版/200頁  ●定価:850円(税別)

世界を変えるSTEAM人材

 米国シリコンバレーで注目されているという新しい人材コンセプト「STEAM」の概念と育成の動向を追った1冊。Science(科学),Technology( 技術),Engineering( 工学),Art(芸術),Mathematics(数学)の領域を越境・融合して,イノベーションを起こすマインドセットに特徴があるとされ,単に理系科目に強い(だけの)人材との違いは,デザイン思考の有無にあると著者らは読み解いている。技術と人間の隔たりにデザインを介在させることで社会を変える活動は,情報社会の次の姿を問い直すプロセスだと解説。実際のイノベーターたちの行動からは,@型にはまらない,Aひとまずやってみる,B失敗して前進する,というスピード感のあるマインドセットが共通して見出せると語る。また,先行研究を引き合いに,これらの特性は後天的に学習が可能だとも指摘し,教育機関での重層的な試みを報告している。これからの社会を担うという意味で未来志向の着眼であり,企業の人材育成というよりは学校教育にフォーカスを寄せた考察といえそうだ。

●著者:ヤング吉原麻里子/木島里江  ●発行:朝日新聞出版/2019年1月30日
●体裁:新書版/256頁  ●定価:810円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki