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書評 2019.11

破壊的新時代の独習力

 今までの秩序とルールのもとで成功してきた先輩たちのノウハウは,ビジネス環境が破壊的に変化している今後は通用しない(断層がある)との認識で,著者はこれからの人材が身につけるべき能力を本書に語っている。破壊的変化は,主に「デジタル」「グローバル」「ピープル」の3 要素で顕在化しつつあり,これを旧来の階層型組織のフレームで対応しようとしても残念な結果にしかならず,新しい時代フェーズではネットワーク型組織の動き方が有効だと指摘。個人レベルで強化するスキルを,@Why What How を駆使して問題を設定する力,A専門性・統合力・連携力を用いた情報をつなぐ力,B作戦を立てて人を動かす力,の3点に整理し,前例が通用しないがゆえに「独習」によって能力を獲得せよと訴える。知識のインプットに留まらず,自問自答を重ね,実験し,失敗から学ぶ経験を通じて“物語を作る”マインドセットを求め,コンピテンシーの形成・強化へと導く。次世代ハイレベル人材養成講座の教科書ともいえそうなけっこう硬派なコンテンツだ。

●著者:キャメル・ヤマモト  ●発行:日本経済新聞出版社/2019年9月10日
●体裁:四六版/216頁  ●定価:1,500円(税別)

中堅・中小企業のための働き方改革 実践40

 3人の社労士による7章40話で構成された「働き方改革」の推進ガイド。ただし,類書にありがちな“労基法解説・改正法対策”ではなく,経営人事が「生産性」と「社員の幸せ価値」を向上させていくためにどのような組織運営を進めていくべきかという「働き方改革」の目的に立ち返った取り組みで貫かれている。改善の実行段階では,経営人事の専管事項に閉じ込めるのではなく,全社を巻き込み,PDCAで施策の浸透具合を検証していく手法を推奨。当然,ハラスメント対策や時間外労働といった項目も含まれるが,法対応が直接の目的ではないので,人材育成や総額人件費管理を取り込んだ広い視野からのマネジメント改革を説き起こしている。具体的には,生産性向上の手段にスカイプ会議の利用を提案したり,新卒採用時に「奨学金返済支援」をアピールしたりする戦略要素も挙げている。その他,新入社員を3年かけて育成する計画,管理職登用の基準・実務,業績配分型の賃金設計法など,人事全般の確認に役立ちそうな内容が盛りだくさんだ。

●著者:浅香博胡/白石多賀子/山田晴男  ●発行:生産性労働情報センター/2019年9月30日
●体裁:四六版/188頁  ●定価:1,500円(税別)

伸びる会社,沈む会社の見分け方

 様々な会社の浮沈を内外から見てきたベテラン経営コンサルタントの著者は,「目利き」の立場から伸びる会社とダメな会社の特徴を48項目にわたって整理し○×判定したという。ただ,書名の「見分け方」も小見出しの○×判定も,どうも訴求の本筋ではなさそうだと読者はほどなく気づかされるだろう。縦横に蓄積された経営ノウハウを伝える手段として48項目に区切ったのであって,目的は浮沈を見分けることでも○×判定でもなく,伸びる会社の要点を日頃の経営で実践してこそ本書の意図は活きると理解したほうが素直に腹落ちする。財務系のポイントに加え,「社員の姿勢や風土」(13項目),「経営者の姿勢」(17項目)といったヒトに関わる指摘も多くかつ深いのも特徴的だ。例えば,座学の理念研修をやっても効果は薄く,まずは社員たちの行動を変えるのが先で,やがて働きがいの自覚が芽生え,理念定着はそこからだと因果を説く。人材は切磋琢磨で成長するが,和気藹々では危ういとも語られていて,組織マネジメントに注目して読むと一段と面白い。

●著者:小宮一慶  ●発行:PHP研究所/2019年10月2日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:870円(税別)

退職代行

 弁護士で社労士の著者は「退職代行業」を請け負っている。辞めたくても辞められない依頼主の代行者として退職届を内容証明で会社に送り,離職票の発行や健康保険の切り替えといった手続までを見届ける。勤労者と勤務先の関係が良好なら本人が退職届を提出して円満退社となるが,そうもいかない事情も垣間見える興味深い内容だ。依頼者は弁護士を立ててでも正しく退社しようという真面目な方が多く,「男性・正社員・30代・40代」が目立つという。依頼理由では,退職を告げると社長に逆ギレされる,引き継ぎや退職手続で嫌がらせを受けたくない,在職中の未払い残業代を請求したい,在職中の過失を理由に損害賠償を請求されかねない等の事例が挙げられている。なかには依頼者がメンタルを病んでいるため,業務の引き継ぎまで代行したケースもある。著者自身は,退職・代行利用を推奨する意図はないと断りつつも,嫌々働いて命や健康を危うくするくらいなら会社を辞めて生き延びる道を選択すべきだとも述べ,幸福追究の思いを言い添えている。

●著者:小澤亜季子  ●発行:SBクリエイティブ/2019年10月15日
●体裁:新書版/184頁  ●定価:830円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki