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書評 2021.05

できる上司は会話が9割

 日頃はエグゼクティブコーチとして活躍する「リーダー育成家」の著者が,部下対応に悩める上司たちのためにノウハウを整理したコミュニケーションマニュアルだ。「部下が育たない」「部下に伝わらない」「チームがまとまらない」「板挟みで動けない」の計4章・32のミニケースを手がかりに,適切な対処法をアドバイスしてくれる。ただ,いずれもベースはコーチングであり,直接的な指示・指導・正解・解決は目指していない。すなわち,相手の言い分を復唱し,感情を受け止め,発言の背後にある真のニーズを探り,本人が自ら考えるよう導く話法に特徴がある。自分に対してネガティブな反応を示す部下との関係修復,メンバー同士がこじれているときの仲介・調停なども,具体的なセリフを載せ,全体にかんで含めるような優しい表現で語られているので理解は容易だが,実践の難度は相当に高く,場数を踏む覚悟は求められそうだ。新しい部署の上司に着任したら,未経験の分野で組織を任されたら,そんなときにも,まずは本書の一読をお勧めしたい。

●著者:林健太郎  ●発行:三笠書房
●発行日:2021年3月10日  ●体裁:四六版/256頁

テクニックに走らないファシリテーション

 本書はファシリテーションに詳しい講師・研究者らによる入門書ではあるものの,書名の通り,テクニックの知識にはほとんど触れられていない。そのかわり“一見うまい”ではなく“ちゃんとうまい”運用ができるよう前段階の基本姿勢に関するレクチャーが手厚い。キーは,2つのセンス(@目利き,A行動選択)と3つのスタンス(@自然体,A配慮,B学習者)だ。センスとは,場を観察し,状況を解釈し,参加者たちの言動・振る舞いの背後にある意図・真意を推察したうえで,見守るか,手を打つかを判断する力量だとされる。これを磨くには司令塔の経験が欠かせず,日頃から鍋奉行を担当したり,ミステリードラマを見ながら犯行動機を読んだりする訓練が有効だとアドバイスを綴っている。また,お笑い番組のMCの挙動からも学べる要素は多いと注目し,独特の自己訓練法を公開する。後半のシーン別実践では,対面の定例会議,プロジェクト活動等のほか,オンライン会議のファシリテーションを別枠で解説するなど,オリジナリティは抜群だ。

●著者:米井 隆/岩元宏輔/森 格  ●発行:産業能率大学出版部
●発行日:2021年3月31日  ●体裁:四六版/227頁

問題社員の正しい辞めさせ方

 素行不良や能力不足の問題社員であっても,労基法と解雇権濫用法理によって解雇が難しい事情を共有したうえで,本書は「退職勧奨」という手段を会社に提案している。その手法をさらに2つに分類。1つは「北風方式」と呼び,@事実のヒアリング,A書面による注意,B人事異動・配置転換,C懲戒処分,D退職勧奨というステップを踏んだオペレーションを解説している。もう1つは「太陽方式」と名付け,@棚卸し,A振り返り,B指摘,C徹底指導というステップで,心底から本人の更正と改善を願い,本腰を入れて徹底的に向き合う働きかけを紹介している。とりわけ太陽方式では,会社を困らせたいだけの問題社員は自ら辞めていき,悪意のない能力不足の社員は,気づきを得て成長する(問題社員ではなくなる)事例を挙げ,メリットを強調する。また,最終章では,良好な労働環境が機能していれば問題社員を採用するリスクは避けられ,「いい会社」を目指せば,ブラックユニオンの介入も防げると,原点に立ち返った予防策をまとめている。

●著者:新田 龍  ●発行:リチェンジ
●発行日:2021年4月1日  ●体裁:四六版/288頁

1分でわかる! 仕事の基本とビジネスマナー

 身だしなみ・立ち居振る舞い・敬語といったビジネスマナーの基本とともに,給料・人間関係・生産性に至る仕事の意味をひと通り考えさせる若手社会人向けガイド。各項目とも見開き構成で計100に及ぶトピックをイラスト・帳票サンプル等の図解を満載して見せている。書名通り1項目あたりの理解は「1分」あれば大丈夫だろう。興味深いのは,サブタイトルの通り「アフターコロナ時代」に目配りされている点だ。類書にありがちな礼儀正しさや清潔感といった次元ではなく,成果物や効率性(無駄の排除)をしっかり強調。また,仕事のノウハウの章では「基本編」に加えて「テレワーク編」を独立させ,メンタルケアやweb会議のマナーにも踏み込んでいる。時間管理・タスク管理といったテーマは,中堅社員でもためになり,また,携帯・スマホの受発信マナーなど中高年社員こそ確認しておいたほうがよさそうな知識も盛り込まれている。マンガチックにすっとぼけたイラストと,時に真面目に急所を突く解説コンテンツとのギャップも何となく楽しい。

●編著者:ビジネスのしくみ研究会  ●発行:自由国民社
●発行日:2021年4月25日  ●体裁:四六版/238頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki