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書評 2022.02

自己肯定感という呪縛

 心理学の専門家である著者は,「自己肯定感を高めないといけない」とする社会風潮を信仰のような強い思い込みだと疑い,教育および人材育成の現場に警鐘を鳴らす。特に,子供時代に根拠なく褒められて育った人は,大人になって心が折れやすく,忍耐力が乏しくなっていると問題視する。さらに,叱られた経験がないと社会性を獲得できず,衝動をコントロールする力も,困難を乗り越えていくたくましさも身につかないと分析。対して有能な人は「こんな自分じゃダメだ」「自分はまだまだです」と謙虚に向上心を燃やし続け,成長していると観察する。この2つのモデルからは,厳しく叱られても期待感が伝わればそれに応えようと成長を目指せるが,ただ「いいね」と褒められるだけでは「成長しなくていい」というメッセージに受け止めかねないと相違点を見出している。確かに「オレ・ワタシすごいでしょ」ではレベルが浅く,「本当にこれでいいのか」「相手はどう思うか」と不安になるくらいの人ほど能力開発に成功しているとの指摘には納得がいく。

●著者:榎本博明  ●発行:青春出版社
●発行日:2021年12月15日  ●体裁:新書版/191頁

企業と経済を読み解く小説50

 数字を苦手とする文学青年が編集者になるので,経済小説は長くキワモノ扱いされてきたと著者は出版界を振り返る。その経済小説・企業小説を50冊選び「巨悪の実態」「増大する資本と欲望」「会社国家ニッポンのゆがみ」「組織と人間」の4章に分類して紹介を試みたのが本書だ。一般によく知られる作品では『火車』『ハゲタカ』『沈まぬ太陽』『懲戒解雇』など,また作家名では,清水一行,城山三郎,高杉良,池井戸潤,江波戸哲夫,幸田真音,等の各氏が取り上げられている。「おもしろくてためになる作品を選定した」とされるが,客観的で汎用性の高いブックガイドを期待すると裏切られる。各作品とも作家との出会いや対談の思い出,小説家・批評家仲間の評判といった打ち明け話にページが割かれ,作品そのものの世界にはあまり踏み込まれていない。本書の実態は小説作品を手がかりに著者自身が語る論考集に近く,実際にあった政治経済事件の暴露話や世相の述懐に興味を持てるかどうか読者は問われる。小説好きの人ほど少し悩まされるかもしれない。

●著者:佐高 信  ●発行:岩波書店
●発行日:2021年12月17日  ●体裁:新書版/215頁

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

 経営コンサルティングの現場で苦労を重ね,その経験から導き出したチームパフォーマンス向上アプローチの手法を公開した1冊。前半のリーダー論では,指示・管理型の限界を指摘し,自律型・支援型が求められる構造変化を説き明かしている。後半ではチームパフォーマンスの向上に影響する要素を分解し,「自己向上行動」と「チーム向上行動」4項目ずつの「8つの主体的行動」と,「9つの心理的要因」(@目標共有,A心理的安全性,Bチームへの愛着,Cメンバー信頼,Dチャレンジ精神,E仕事のやりがい,Fプロセス重視,G顧客重視 Hチーム貢献への自信)を整理。さらに要素間のマトリクス対比から相互の関係性を分析し,機能不全状態に陥ったチームに対し何を見てどこを強化すべきかを具体的に把握できるようツール化を試みている。実際,スコアリングできる質問票と選択肢(配点分布)が掲載されているので,チーム単位でのトライアルも可能だ。分析結果を13段階のイラストで可視化し効果を高めた実践例報告も面白く読める。

●著者:橋本竜也  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2021年12月27日  ●体裁:四六版/182頁

その「ひと言」でチームが変わる最高のフィードバック

 エグゼクティブコーチの経験豊富な著者が,組織のリーダー向けにフィードバックコミュニケーションの極意をレクチャーしてくれる。テクニカルスキル以前に,部下の成長・自己実現を支援する姿勢にあるか,アメとムチではなく内発的動機を引き出すスタンスに立てているかを確認し,そのうえで4つの法則(成長・関係性・感情・環境)に沿った4章立ての構成で解説を展開している。「指示通りにやって下さい」ではなく「君ならどうやりますか」という質問が典型的だが,アドバイスせず,本人が考えるプロセスを尊重する会話の難度は高い。例えば,本人が希望しない部署への配置転換であっても,未知のやりがいを見出せるように導き限界を超える手助けをするのがリーダーの役割だと説明されている。「任せる勇気」に至っては“信じて手放す”“期待も手放して応援する”そして“責任も取らせる”という距離感と覚悟を諭す。論理的かつ実践的な「共感型コーチ」の神髄が余すことなく公開され,1on1ミーティングなどの機会にも応用が効きそう。

●著者:國武大紀  ●発行:大和書房
●発行日:2021年12月30日  ●体裁:四六版/288頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki