書評 2025.04
冒険する組織のつくりかた
戦略を立案し,人員を投入し,指示を徹底してライバルと競い合うビジネスでは多くの要素が軍事に重なる。その「軍事的世界観」から抜け出そうという提案が本書に通底するテーマだ。多様化と不確実性が増す今は組織と個人の間の齟齬が拡大し,「楽しく働けない」「もう辞めたい」という“脱走”の形で顕在化しつつあると著者は読み解く。そのうえで軍事に対峙する概念を「冒険」に見つけ,組織のあり方をアップデートする方法を探っている。軍事的世界観から脱する手がかりでは5つのレンズ(目標・チーム・会議・成長・組織)を挙げ,新しい概念に寄せていく。例えば,目標は「行動を縛り上げる指令」ではなく「好奇心をかき立てる問い」へ,組織は「事業戦略手段」ではなく「人と事業の可能性を広げる土壌」へと捉え方の転換を訴える。一方で,軍事的縛りからの脱出は「戦いのない世界」を目指すものではないとも述べ,危機を乗り越える厳しさも併記。まさしくアニメ『ONE PIECE』の世界観が現実の社会組織にフィットする局面を認識させられる。
●著者:安斎勇樹 ●発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン
●発行日:2025年1月26日 ●体裁:四六版/448頁
決定版 7日で作る人事考課
コンピテンシー評価と職務役割ベースの複線型人事を解説した前著から10年の節目に大改訂されたのが本書だ。リモート勤務,人件費高騰,ジョブ型志向,定年後再雇用に象徴される雇用の様変わりを受けて,今およびこの先に対応する人事制度の構築をガイドしている。前編「今から人事制度を一からつくるなら」と,後編「すでにある人事制度を改定するには」に分け,前編は1日単位でやることを整理し,書名通り7日で完成する章立てになっている。後編では,各社の事情による部分的制度改定を想定し,人事戦略の策定,等級制度の体系化,報酬制度,評価制度,採用から退職までのフロー整理,移行措置をも見越した設計運用法が解説されている。昇給のあるジョブ型や,夏冬の固定賞与を廃止し期末利益配分にウェイトを置く仕組み,インフレ下の賃金の組み立て方などは時代を視野に捉えた注目ポイントといえる。「職務記述書」「給与テーブル」「MBOシート」等の帳票類(主にエクセルシート)をダウンロードして活用できる読者特典もうれしい。
●著者:平康慶浩 ●明日香出版社
●発行日:2025年2月14日 ●体裁:四六版/380頁
外国人雇用のトリセツ
法令に則り「外国人技能実習生」「特定技能外国人」を受け入れ,安定して働いてもらうコツを順序立てて解説したガイド。技能実習生の場合は監理団体,特定技能外国人の場合は登録支援機関という支援団体が窓口になるので,企業としてはいかに優良な支援団体を選ぶかがポイントになると,自身も監理団体を運営する著者は説明する。就労前には支援団体による日本語,社会ルール,生活習慣についての講習が義務づけられているので,企業側で準備するのは,社員寮や生活インフラだという。その際は社員寮の1人当たり面積など遵守事項があること,さらに今どきの外国人に必須なのはWi-Fiだとリアルな事情も綴られてる。職場では,外国人担当者を置く,曖昧な指示をしない等の配慮のほか,相場以上の賃金で労働意欲を高めてもらうといったマネジメントの有効策も挙げている。日本での就労を希望する外国人は,若く,採用しやすく,素直で仕事熱心なので,企業側のメリットも大きいとされる。外国人活用のハードルが一気に下がりそうな内容だ。
●著者:井上直明 ●発行:ぱる出版
●発行日:2025年3月6日 ●体裁:四六版/192頁
企業の未来を変える! 人的資本経営×ESG思考
「経験の資本化」を提唱し,300社・5万人以上を支援してきた著者が「人的資源管理」から「人的資本経営」へ大転換させる方法論を語る。「事業の発展=人的資本×社会関係資本(信頼関係・ネットワーク)×心理的資本(自己効力感・未来への希望)」「個人の活躍=能力×状態(職場・個人)」といった独自の方程式を考察の柱に据え,経営要素を抜き出し,定義づけ,改めて構造化し言語化していく緻密さには驚かされる。リスキリング等の流行の施策に走っても従業員たちの行動変容がなければ人的資本は高まらないと指摘。ゲーム(「ドラクエ」「パワプロ」「信長の野望」)を例に経験の蓄積が個人と組織を強くする関係を示したうえで「経験は自動的に資本化されない」ゆえ,個々の経験を可視化・言語化し,企業と個人の両者の資本として生かすプロセスが必要だと力説。具体的な声かけ・フィードバックのセリフも列挙する。一貫して対象物事を論理的に切り分けつつも,抽象概念に踊らない思考の巧みさと内容密度の濃さに圧倒される。
●著者:白井 旬 ●発行:合同フォレスト
●発行日:2025年3月14日 ●体裁:四六版/304頁
HRM Magazine.
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