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シニア向けキャリアモデルを再構築せよ

エム・アイ・アソシエイツ梶@ 代表取締役社長 松丘啓司

 50代のシニア層を対象としたキャリア研修が再び活発になってきている。かつては多くの企業が「セカンドキャリア支援」などと銘打って,福利厚生色の濃い退職後の「ライフ」「ファイナンス」プラン作りのサポートを行っていた。しかし,今日,シニア向けに求められているのは退職後ではなく,在職中のキャリア開発である。社員向けの補足サービスというよりも,組織のパフォーマンス向上のために欠かすことのできない取り組みとして注目される。

■次の世代のために新たなキャリアモデルが必要

 ここに来て,シニア向けキャリア開発が積極的に行われる背景には,組織の逆ピラミッド化の進行と雇用の長期化という企業共通のトレンドがある。シニア社員は後進層に役職ポストを明け渡さなければならない一方で,年金支給開始年齢の引き上げに伴って,より長く働き続けなければ生計の維持が難しい立場となっている。
 今後,企業の長期雇用責任がますます重くなることも想定され,一兵卒となったシニア社員のモチベーションを維持しながら会社への貢献をいかに引き出すかは差し迫った課題といえる。同時に,豊富なノウハウや経験を持ったシニア社員がイキイキと働く実例を創れば,後進層(特に現在40代のバブル世代)に対してロールモデルとすることができる。60歳引退時代とは異なるキャリアモデルの構築が,まさに今,必要とされているのである。

■他人に言われてもがんばれない現実

 これまで,役職定年を迎えたシニア社員は「ほどほど」に働けばよかった。しかし,これからはそうはいかない。より長期間,シニア社員がほどほどに働き続けたら,本人も会社も幸福にはなれない。
 シニア向けキャリア開発の最大のポイントは,「働きがい」の源泉を昇進や昇給といった外発的動機づけから,個人の内的な価値観に基づく内発的動機づけに転換することにある。外発的動機を喪失したシニア社員に対して,「会社に貢献せよ」と外から促しても,がんばる意欲は湧いてこない。あるいは,若手の育成やノウハウの継承といったミッションを与えて「会社に恩返しせよ」と使命感に訴えても,それだけでは長続きしない。
 一人ひとりが自分にとっての働きがいを明確に意識し,何のために働くのかという目的観を内発的に高めていくことが不可欠だ。“精いっぱい,仕事をやり抜こう”と自分自身が思わない限り,本当に意欲が高まることはないのである。

■「働きがい」と「生きがい」の関係に気づかせる

 そこで,シニア社員が内発的に働きがいを見出し,高めていくために重要なキャリア開発上のポイントを2点挙げよう。
 1点目は,一人ひとりが自分の内側に有している価値観に気づかせる機会を,会社が十分に提供することだ。長年にわたって,企業戦士を続けてきた社員には,自分の外側の価値観が身に染みている。その結果,自分ならではの価値観や強みと,それを活かすことが自分にとっても会社にとっても価値あることだと気づけないでいる。
 2点目は,残されたキャリアのなかで,自分ならではの働きがいの実現が,退職後の「生きがい」に繋がることを理解させたい。生きがいのない余生はつまらないはずだが,それは待っていても得られない。やはり,自分らしさを活かすことが不可欠なのだ。仕事の場において,とことん自分らしい貢献を追求することによって,その先の人生も豊かになると理解してはじめて,長いシニアキャリアをがんばってみようと思えるようになる。そうした個々人による意味づけを促すことが重要である。

(月刊 人事マネジメント 2012年2月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2003年に独立し、エム・アイ・アソシエイツ鰍設立。同社では、人と組織の内発的変革を支援する研修、診断、コンサルティングサービスを提供している。主な著書に、『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『論理思考は万能ではない』『組織営業力』などがある。

>> エム・アイ・アソシエイツ株式会社
 http://www.mia.co.jp/