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「360度評価」まだやりますか?

リビングロース・コンサルティング梶@代表取締役 江田郁代

■「普通のチーム」でいいのですか?

 人事・教育担当の方から,「最近のチームリーダーはリーダーとしての自覚が足りない。360度評価で気づきを促したい」という相談をしばしば受ける。そんなとき,次のような図を描いてみせ,今,どのチームが多いのかをうかがうことにしている。
 すると,大抵,左側を指される。リーダー(L)とメンバー(M)の関係が良くないばかりか,メンバー間の意思疎通もなく,ギクシャクしている。1人ひとりが自分の力を十分に発揮できないので,1+1が2に満たない「ダメチーム」になっているのだ。
 次に,どんなチームを目指してほしいのかをうかがうと,ほぼ100%,右側を指される。リーダーとメンバーだけでなく,メンバー同士が良い刺激を与えあって,各人の能力以上の力が発揮できる,素敵なシナジーが生まれている「良いチーム」だ。
 真ん中は,メンバー個々人がリーダーの指示に基づき,自分のやるべきことをやっている状態。プラスもマイナスもない,「普通のチーム」である。
 360度評価とは,上司の日頃のマネジメントぶりや態度・姿勢を部下に評価してもらい,上司本人に気づきと改善を促す仕掛けである。バリエーションはあるが,主要な部分は,「部下→上司」なのだ。
 もうお分かりだろう。上司と部下の関係を改善して到達できるのは,せいぜい真ん中の普通のチームまでである(メンバー間に火種があれば普通のチームにすらなれない)。つまり,「良いチームを目指してほしいときに本当に360度評価で良いとお考えですか?」と問いたいのだ。

■多様化と高速化のダブルパンチ

 そもそも,最近のチームリーダーに自覚がないとは私は思わない。近年ますますチームマネジメントの難易度が高まってきており,「自覚があっても術がない」状態に陥っているだけなのだ。
 難易度が高まった理由の1点目はメンバーの多様化である。企業買収やクロスファンクショナルチームの増加,採用抑制による歪な年齢構成等により,メンバーの価値観が多様化し,「違い」に因る葛藤が増している。放置すれば火を噴き,「ダメチーム」状態に陥る危険性が高くなっている。
 2点目はビジネス環境の変化の高速化である。リーダーがその都度完璧な戦術を練り,部下1人ずつに指示を与えて実行させているようでは遅すぎる。図の真ん中のチームのようなあり方は変化のスピードが速い時代にはもはや機能しない。

■「チームアセスメント」の視点が必要

 「良いチーム」でなければ顧客が求める価値を継続的に提供し,生き残ることはできない。そして,「良いチーム」作りにはリーダーとメンバー全員がチームの状態を正しく知り,その要因を本音で話し合うチームアセスメントの視点が不可欠だ。経験から言えば,チームの状態に対するチームリーダーの寄与率はせいぜい40%程度である。メンバー各人の要因(価値観,働きがい等)とメンバー相互の要因(相性,影響の質等)が20%ずつ,残る20%はチーム外要因(評価,報酬,企業理念等)であろう。リーダー要因しか測定しない360度評価ではチームの状態を把握するには全く不十分なのだ。
 「良いチーム」を目指すのであれば,チームアセスメントという新たな視点を提供して,全員によるチーム作りを支援していただきたい。

(月刊 人事マネジメント 2012年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
人事・組織コンサルタント。
欧州系食品製造多国籍企業で法務、内部監査、購買業務を経験した後、1998年に米系コンサルティングのワトソンワイアット(現タワーズワトソン)社に入社。人事コンサルタントとして、数多くの企業の人材マネジメント改革プロジェクトに参画し、仕組み構築と運用支援の両面からクライアントの改革をサポートしてきた。2010年に人と組織の成長をトータルに支援するリビングロース・コンサルティング鰍設立し、代表取締役社長に就任。組織は人が生きて成長する場というのがコンサルティングの信念。

>> リビングロース・コンサルティング株式会社
 http://www.livingrowth.co.jp/