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役割が拡大する企業内キャリアカウンセリング

(株)日本マンパワー 人材開発企画部 研究開発グループ 専門部長 水野みち

■企業内キャリアカウンセリングが必要な背景

 企業内キャリアカウンセリングサービスを導入した27社に調査を行ったところ,導入の背景として次のような課題が挙がりました。「時代の変化により,従来の教育手段が通用しにくくなった」「プレイングマネジャーが増えたため,育成に手が回らなくなった」「社員の先行きの不安や心身のプレッシャーなどが問題視された」「変化に耐えられる強い個人を育てるため,キャリアの軸・ビジョンをしっかりと持てるよう支援する必要があった」「従業員の高齢化に伴い,65歳定年や役職定年を見通したキャリアの積み方を支援するため」「社員の離職・職場内でのコミュニケーションギャップ」「職場内のタコツボ化が起きているため現場の声を吸い上げる機能が必要となった」など。27社の企業はこれらの課題に対して,なぜ「キャリアカウンセリング」で対応しようとしたのでしょうか。そこには,企業内キャアカウンセリングならではの特長が挙げられます。

■企業内キャリアカウンセリングの3つの特長

 企業内キャリアカウンセリングの特長には次の3つがあります。
 特長の1つ目は「個別相談」です。キャリアカウンセリングは,個人の深い本音の部分を丁寧に聴く機能だといえます。例えば従業員が「上司との関係がうまくいかず,上司に問題があるので会社を辞めたい」と相談に来たとしても,キャリアカウンセリングを通して内省が進むと,実は自分自身の能力に対する劣等感が強く,自信をつけたいという深いレベルのニーズがあるかもしれません。個人が自分を見つめていくプロセスを辿れるよう,安心安全な場と相手を用意することで,より本質的な支援につながります。それはひいては,従業員の健全な成長を促す機能となります。専門的な訓練を受けているキャリアカウンセラーだからこそ実現できる展開であり,ただの雑談では不満が募ることさえありえます。
 特長の2つ目は「組織アセスメント」の機能です。企業内のキャリアカウンセラーは同じ会社の複数の従業員を対象に相談に乗る(特定の年代は全員受けるという必須面談の場合もある)ので,組織的な傾向をつかむことができ,その会社特有の「見落とされていた課題」を発見しやすくなります。例えば,新たに取り入れた制度によって発生する歪みなどは,マネジャーや人事に声が届くまでに時間がかかります。企業内キャリアカウンセラーは,個別支援をしながらも,それらの課題にいち早く気づき,仕組みに還元させる役割を担うこともあります。
 特長の3つ目は,「関係調整・すり合わせ」の機能です。これは,第三者として上司・部下間の意識のずれやコミュニケーションギャップを減らす役割をキャリアカウンセラーが担うケースを示しています。三者面談という形を取る場合もあれば,ワークショップ形式の場を構成するという方法もあります。

■日本の企業組織でこそ活躍の余地は大きい

 以上の通り,キャリアカウンセリングは現場の課題に合わせて機能性を高め独自の発展を遂げているからこそ,有効活用されているともいえます。特に最後の2つは,日本のキャリアカウンセリングならではの機能だといえます。日本では個別支援をはじめ,組織開発的な役割にまで発展しつつあります。スクールカウンセラーが相談室で生徒を待つだけではなく,教員と連携を取ったり,授業の一部を受け持ったりするなどして支援の枠組みを広げている動きと類似しています。超高齢化社会の問題(介護など)が増加してくることも考えると,社会や企業のニーズに応じて企業内キャリアカウンセリングの役割はさらに拡大発展していくと予想されます。

(月刊 人事マネジメント 2014年10月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
国際基督教大学卒業。1999年より株式会社日本マンパワーにてキャリアカウンセラー養成講座や資格の立ち上げ、日本キャリア開発協会(JCDA)の設立に貢献。2005年にはペンシルバニア州立大学修士課程カウンセラー養成プログラムにて教育学修士を取得。現在では企業内のキャリア開発/キャリアカウンセリングをはじめ、ダイバーシティや組織開発などのテーマを中心に、調査研究・プログラム開発を行っている。

>> 株式会社日本マンパワー
 http://www.nipponmanpower.co.jp/