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欲しい人材は採りにいく時代

(株)プロフェッショナルバンク 代表取締役 兒玉 彰

■労働力不足で採用難は加速する

 2010年代に入り国内生産年齢人口が加速度的に減り,人材不足は今,最も深刻な課題となっている。企業が採用募集をしても「問い合わせが来ない」「応募があっても必要とする人物像が見つからない」と頭を抱える場面は多いのではないだろうか。
 労働人口はこれからも減少の一途をたどるため,有効求人倍率の低下は望みにくく,計画通りに採用できる時代が再び来るとは考えにくい。これまでも人材不足に悩んできた現業や飲食業,サービス業はさらに外国人従業員の採用枠拡大や営業時間の短縮などが迫られそうだ。以前のように景気が上向いたタイミングで採用数を増やせる時代は終わった。

■人材獲得競争が激化し,獲得手段は多様化する

 企業間の競争が激化し,求める人材が変化したことも獲得の難しさにつながっている。ITや産業技術革新のスピードが速まり,グローバル化が進んだことによって,商品やサービスの寿命が短命化してきた。今いる人材やマーケットをベースに5年後,10年後の経営計画を立てることが難しくなってきた。例えば海外進出や新規事業を行う際,社内で最もふさわしい人を選ぶやり方では,競合他社や諸外国との競争に負けてしまう。そのため,すでに海外進出などの経験がある人材を採用し,即戦力として活躍してもらう必要性が増した。もちろん,創業の理念や伝統を引き継ぎ,永続的に発展するためには,継続して新卒採用を行い育てなければならない。だが新卒採用に重きを置き過ぎたり,退職による欠員を中途入社で埋めたりする方法では企業の成長スピードを加速させることは不可能だ。転職者の意識も,終身雇用制度が崩壊して以降,自身のスキルアップを真剣に考えるように変化してきている。
 こうした背景もあり,人材確保の手段は多様化してきている。実は転職サイトに登録し,自ら企業に応募して試験や面接を受ける人は全就労人口のわずか5%程度しかいないといわれる。この中から自社が求める人材を探し,採用につなげるのは困難である。経営のスピード化と多角化に対応しようとしても,専門職や技術職はもともと人数が少なく,転職する文化もあまりないため募集しても簡単に集まらない。社員総出で優秀な人材を探し獲得するリファーラル採用は米国を中心に広がり,日本でもIT業界などで導入されている。しかしながら個人の人脈には限界があることから,継続が困難であり解決の手段にはなっていない。

■人材ハンティングの幅が広がる

 最近では転職活動をしていない残りの95%に着目し,評判や公開情報により即戦力となる人材を探して採る企業が増えている。実際に話を聞いてみると一生今の会社に居ると決めている人はむしろ少なく,潜在的には転職の意思があり,より成長したいと移籍を決意するケースも少なくない。
 「ヘッドハンティング」と聞くと経営層を一本釣りで引き抜き同業他社に移すというイメージが強く,日系の企業にはまだあまりなじみがない。だが専門スキルを10年,20年高めた30代・40代の需要が増し,こうしたミドル層のハンティングを活用するケースが広がってきた。特に技術職や専門職,特定職業の有資格者等は,需要,実績ともに高い。
 ハンティングによる人材採用には未だ抵抗感が残るかもしれない。だが1人の転職が会社全体の発展を促す起爆剤となる可能性を秘めている。長期にわたり社内に対立感情を生むリスクのあるM&Aよりも,活用しやすいのは確かだろう。欲しい人材は募集して待つのではなく,積極的に採りにいくことが企業の成長の鍵となる。

(月刊 人事マネジメント 2017年2月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1987年、株式会社パソナに入社 。営業部に配属される。オーストラリア現地法人代表、首都圏営業統括執行役員、東日本営業統括常務執行役員を歴任。2004年8月に退任し、株式会社プロフェッショナルバンク代表取締役副社長に就任。2007年4月から代表取締役社長。

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