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考えて動く新人を短期に育成する方法

講師ビジョン(株) 代表取締役 島村公俊

 「新人を早く育てたい」「でも現場には手取り足取り教えている余裕はない」というジレンマは,多くの組織が抱える悩みです。若手社員が入社数年で退職・転職し,人手不足やタレントの奪い合いが常態化しはじめている昨今,新人教育の悩みは企業にとってこれまで以上に深くなりつつあります。そこで,その処方箋となるヒントをお伝えします。

■育成よりも短期的な成果“指導者のジレンマ”

 新人を育てる現場指導者の多くは,大きく2つのモヤモヤを感じています。
 1つ目のモヤモヤは,「忙しすぎて,教える暇なんてない!」という気持ちです。指導者の皆さんは,“育成しなくては!”とは頭では分かっているものの,忙しいうえに,求められる自身の成果目標も高く,正直,自分の目の前の業務に必死で新人の育成どころではないのです。
 もう1つのモヤモヤは,「もっと自分の頭で考えて行動してほしい!」というものです。多くの指導者は,新人にもっと主体的に動いてほしいと思いつつも,つい指示命令を優先してしまいます。目の前の仕事をどんどん片付け,今期の業績目標を何としてもクリアしていく必要があり,新人はそのための戦力だと認識しています。したがって,業務遂行に戸惑いがちな新人には次々に指示を出します。ただ,それは結果として指示がないと動けない新人を育ててしまっています。教えすぎると自分で考えなくなり,主体的に行動する新人を育てることはできなくなります。ここにジレンマがあります。

■教える時間を減らし,成長を速める方法

 では,「忙しくて教える時間がない」「でも,早く自分で考えて行動できる部下に成長してほしい」というこの悩み,どう解決したらよいのでしょうか? 「教える時間を短くする」これが答えの1つです。より正確にいうと「教える機会は減らさずに(むしろ増やして),質問を通じて考えさせることで1回の指導時間を極力短く済ませる」となります。
 新人を成長させて戦力化するには,その都度ある程度の時間をとって懇切丁寧に指導する必要があると思われがちですが,必ずしもそうではありません。会議室で1on1をする余裕がなくても問題ありません。日々の新人との会話のなかで,ちょっとした質問を投げかけ,考えさせることが大切です。お互い構えた環境ではなく,通常の会話の延長線上で,短く,良質な問いを投げかけることで,指導者は育成時間を削減しながら,新人の主体性を高めていくことができるのです。
 例えば,新人と同行営業に出かけ,商談時間の1分前にお客様先に着いたシーンで考えてみましょう。ロビーのソファで新人と2人で座って,先方の担当者を待っている状況です。その1分もない短い時間でも育成に有効な質問はできます。例えば,次のような“時短質問”を投げかけ,10秒トレーニングを試みるのです。
 「今日の商談のゴールは,どこに置いている?」
 限られた商談時間で成果を出すために,ゴールをより明確に意識してもらうのです。実際にこの質問を声に出して時間計測すると約3秒です。つまり残りの7秒以内に新人に考えて答えてもらえばいいのです。お互いに慣れないうちは難しいのですが,徐々に10秒で完結できるようになっていきます。多くの現場指導者は,時間と場所を確保して新人に一から十まで教える余裕などありません。時間をかけて教えられないからこそ,業務のなかで質問を通じて自ら考えさせ,成長を促すのです。このアプローチを毎日やるかやらないかで,新人の成長度合いは,1年後に相当な差が開くことになるでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2019年11月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
2001年人事コンサルティング会社入社。その後、教育関連会社を経て、2006年ソフトバンク株式会社入社。東京国際フォーラムにて2,000人規模の営業、クルー向けセミナーの講師として、孫正義会長の前座を務め、ボーダフォン買収時の現場教育に貢献。2009年ソフトバンクユニバーシティの立ち上げのため人事本部人材開発部へ異動。社内認定講師制度の構築ならびに、100名を超える社内講師育成へ貢献。2013年Pike’s Peak Awardを受賞。翌年、日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞を受賞。2016年より講師ビジョン株式会社を設立し、研修の内製化コンサルティングや社内講師のトレーニングを中心に展開しつつ、プレゼンテーションやビジネスコーチング研修等も実施している。主著に『10秒で新人を伸ばす質問術』東洋経済新報社、『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』共著・ダイヤモンド社、ほか。

>> 講師ビジョン(株)
 https://koushi-vision.co.jp/