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若手社員の成長支援は2方向から

(株)HRインスティテュート 代表取締役社長 三坂 健

 2019年4月から施行された改正労基法により,まずは大企業に時間外労働の罰則付き上限規制が導入された。「働き方改革」が労働時間の短縮という形で実現されていることを実感している方は多いのではないだろうか。事実,経団連が公表した「2019年労働時間等実態調査集計結果」によっても近年,労働時間は減少し続けていることが報告されている。
 働き方改革によって労働時間が短縮され,その結果として生産性が向上するのは喜ばしい。一方で長い目でみると副作用として注視しなければならない状況も生まれつつある。それは,労働時間の短縮で生まれた「余暇時間」が,必ずしも「自己投資」の増加につながっていないことだ。実際,「1年間に何らかの自己研鑽を行った」とするフルタイム労働者の割合は減少している(早稲田大学・黒田祥子教授らの調べ)。特に大きく減少しているのが就業時間外の職場における自己研鑽の実施率だ。
 労働時間の短縮は特に「非管理職」でみられることから,未来を担う若手人材が業務からも自己研鑽からも離れてしまっていると仮定した場合,企業としては個人の主体性に自己研鑽を委ねるだけではなく,こうした個人の置かれている状況を前提に,次世代のリーダー候補育成に向けた新たなスキームの構築が求められているといえるだろう。

■業務を通じた成長機会の提供を

 では若手人材の育成ではどのような工夫や取り組みが必要とされるのか。労働時間の減少により従来に比べOFF-JTに割く余裕がなくなっているとすれば,業務を通じて若手を育成する意識がより求められることになる。若手人材には,上司からの指示を前提にしたオペレーティブでルーティンな業務だけではなく,「自ら考え,行動し,責任を持つ」仕事の割合を増やしていくことが必要だ。
 そこでカギとなるのが「プロジェクト型の業務」である。配属先の業務に加えて,特命のプロジェクトに加わり,自らがリーダーとしてプロジェクトを動かす経験を積ませることが望ましい。「ただでさえ労働時間が短縮されているのに他の業務に従事させるのは難しい」との声も挙がりそうだがそれは誤解だ。ルーティン業務は生産性向上の対象としてできる限り効率化を進めて時間短縮を図る一方,プロジェクトの仕事はより考え,仮説検証を繰り返す機会として位置づけたい。新規のプロジェクトに参加することで,ルーティン業務の生産性も向上していくというサイクルが定着できると理想的だ。

■キャリアアップの意識づけに工夫を

 業務経験を通じた育成に加えて必要なことが若手人材のキャリアアップの意識を高める仕組みづくりだ。今のマネジメント層が育ったときのように,「上司の背中を見て育つ」はもはや通用しない。キャリアが多様化したばかりか,目まぐるしく業務の進め方が変化しているためだ。若手人材は決してキャリアアップに無関心ということではなく,彼らなりに危機意識はある。ただ人間の心理からすると,遠くのことを考えるよりも,近くの楽な道を選ぶ傾向があるのは事実だ。そこでポイントとなるのが「1 on 1」の面談である。できれば1週に1回(難しい場合でも2週に1回)15〜20分ぐらい,各職場で上司と部下が向き合い,問いかけを通じ考えさせる機会を持つようにする。そこでは目先の業務に加え,1年後,3年後の問いかけも行う。
 「問い」が思考を変える。「問い」の質や種類を変えることで,若手人材の意識や考える矛先を変え,結果として行動も変わる。職場の上司はマネジャーでありながら,若手人材を支えるコーチであり,フォロワーとなることも求められるだろう。

(月刊 人事マネジメント 2020年1月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン日本興亜株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツの開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動している。 書籍に『全員転職時代のポータブルスキル大全』(KADOKAWA)、『印象で得する人、損する人』(PHP)など。

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