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50代シニア社員に越境学習の機会を

(株)ライフワークス 事業企画部長 チーフコンサルタント 野村圭司

■シニア社員活用の課題は何か

 「労務構成比の変化」「雇用期間の伸張」を背景に日本型人事管理が揺らいでいる。1つ目の労務構成比の変化とは,バブル期の大量採用世代が50代となり,ボリュームゾーン化したことをいう。人件費上昇はもとより,役職定年によるポストオフ等で50代のモチベーションが低下。経団連調査では55歳〜59歳期間での意欲低下が60歳以降の停滞につながるとも指摘されている。2つ目の雇用期間の伸張には,高年齢者雇用安定法の改正で65歳まで雇用義務化されたことがある。社会的には60代前半の就業率が上昇する効果を生んだが,企業においては高年齢従業員の停滞を招き,また,職域不足からこの層の力を活用しきれていない状況にある。今後の「70歳定年法」施行や定年を迎える社員の大量発生を想定すると,シニア社員を「経営課題を担う戦力・人的資源」として捉え直し,70歳までの就業を支援する人事構想が重要となる。
 こうした変化に対し,弊社では,シニア社員が自らの役割を創る「役割創造(R)」という考え方を提唱している(仕事・職務や社外活動においてポジションを持ち,自らのキャリア資産を活かして価値提供している状態)。役割創造シニアが活躍するキャリアの領域は「既存領域で力を発揮」「新領域に挑戦」×「社内」「社外」の四象限で捉えられる。「社内」か「社外」かという対立構造ではなく,「社内にいながら社外でも活動」というパラレルキャリアを認めるところにポイントがある。さらに,役割創造を実践している多数の50代へ取材したところ,共通するキーワードが見出せた。それが「越境学習」である。

■越境学習の機会を提供して活躍支援を

 越境学習は,「境界を超えて学ぶことで,暗黙の前提となっていた価値観の変容が起こるような学び」のことで,具体的には,社会人大学院,プロボノ,ボランティア,副業,社内複業などがある。
 シニア社員は入社以来,与えられた職務の全うを求められ,キャリアを自律的に考える環境になく,「今後のキャリアは自分で考えて」といわれても困惑し,選択肢も限られている。ゆえに,越境学習の場が重要となるのだ。取材者の1人は,自身の板書スキルを他者に強みと指摘され,さらに社外講座でそのスキルを磨き「効果的な板書セミナー」を主催するまでに至った。その後も様々なプロボノでキャリア資産を発揮し,現在は定年後再雇用ながら子会社の人事マネジャーを委嘱されている。
 このような越境学習をシニア社員のキャリア開発施策に導入する企業も増えている。
【事例1】地域課題を50代異業種プロジェクトで解決(メーカー・金融・情報通信等の異業種)
 バックボーンが異なるチームで課題に取り組むことで思い込みの意識に気づくのみならず,職務で培った強みを社外で活かす体験を通してポータブルスキルを自覚。可能性を拡大し,プレイヤーとしてもまだまだ活躍できるという認識を高めた。
【事例2】「キャリア研修+プロボノ」で60代以降の展開も見据えた仕掛け(メディア)
 「ぶら下がらずに社内の新領域に挑戦する,社外で多様な選択肢を持つ」ことを目的にキャリア研修を行い,自身の軸・核・強みを明らかにしたうえで,社会課題事業ベンチャーでの越境(プロボノ)を実施し,社会貢献意欲やキャリア意識を後押しした。
 このように越境学習はシニア社員の活躍支援策として有効である。ただ,越境は会社から言われてするものではなく,自らの意思があってこそ効果的な学びとなる。まずはキャリア研修等によりキャリアオーナーシップを醸成することが肝要だ。

(月刊 人事マネジメント 2020年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1994年より人材業界で企業向け採用・育成コンサルティング業務に従事。2013年に株式会社ライフワークスに入社。大手企業従業員向けキャリア自律支援実績多数。併せて、NPO社外プロジェクトにも参画し、シニアの活躍の場を広げるべく取り組んでいる。ライフワークスが掲げるミドル・シニアの新たなキャリア開発コンセプト「役割創造(R)」の普及や産学共同調査によるプロセスモデル研究を推進している。

>> (株)ライフワークス
 http://www.lifeworks.co.jp/