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マルチスキル人材を育てるポイント

(株)スタディスト 取締役 副社長/コンサルティング部長 庄司啓太郎

 働き方改革の推進や,人口減少による人手不足などにより,1人で多くのことを遂行できるマルチスキル人材育成の重要性は年々高まっています。新型コロナウイルスの感染者数が一定の水準まで落ち着き,人手不足に悩む企業の数が増加していることから,今後もマルチスキル人材のニーズは高まりそうです。当社は国内約2,000社にマニュアル作成・共有システムを提供し,コロナ禍でも人材教育をサポートしてきました。仕事の状況やニーズに合わせて柔軟に働ける人材を増やすにはどうすればいいのか,成功事例も交えて,マルチスキル人材の育成(=多能工化)に向けた課題,進め方,そのポイントを以下に解説します。

■多能工化に立ちはだかる「業務標準化」の壁

 多能工化すればあらゆる人手不足問題が解消すると考えがちですが,まずお伝えしたいのが“無目的な多能工化はデメリットを招く”ということです。1人で複数の業務をこなすということは,それだけ従業員の業務負荷が高くなりますし,育成に人的・時間的コストがかかります。製造業においては,1人で複数のラインを担うようなケースが多能工化にあたりますが,ただ漠然と“多能工化したほうがいいのでは”と思って実践すると,負荷ばかり高くなり逆効果になることもあるので注意しましょう。
 具体的に多能工化を進める際のポイントは,「業務標準化」と「浸透定着」です。しかし,これらは多くの企業に壁として立ちはだかります。その原因は,多くの企業が「業務標準化」を人に頼っており,指導役が口頭で教えているためです。この方法だと,教え方にばらつきが出てしまったり,そもそも指導時間が十分に確保できなかったりして「業務標準化」がうまく進まないのです。ですからまずは業務内容をマニュアルにすることが必要不可欠です。現実には口頭で教えている企業にもマニュアルはあるのですが,多くの場合,紙に出力された文字ベースのもので,従業員は自分が知りたい情報を見つけ出すことが難しいため,活用していないのです。

■マニュアルを見直し「社内浸透」をうまく進める

 そこで求められるのが,分かりやすいマニュアルです。そのポイントは,以下の3つです。
@画像や動画をうまく活用する
Aステップ構造で作成する
Bオンラインで誰でも確認できる仕組みにする
 マニュアルを画像付きでステップ構造にすれば業務の流れや定義を可視化できるため,現状の業務の課題点を洗い出すときにも役立ちます。そして,オンラインで誰でも確認できる仕組みにすれば多能工化の2つ目のポイントとなる「社内浸透」に効果的です。従業員がマニュアルを利用するシーンは大きく分けると,「初めて業務を実施するとき」「久しぶりのとき」,そして「業務が変更されたとき」の3つです。新人だけでなく一度作業を覚えた従業員にも確認しやすい環境にすることが社内浸透のカギとなります。
 当社がサポートした企業には,マニュアルを見直しタブレット端末などで簡単に確認できるようにしたことで業務標準化の環境が整っただけでなく,現場のミスが減少した例があります。またこの企業では,1時間かかっていた社員教育が30分程度に短縮されています。パート・アルバイト従業員を多く抱える別のある小売業では,各自が手元の端末で業務手順を学べるようになった結果,これまで難しかった業務も担当できるようになりました。仕事がうまく飲み込めないといった従業員の悩みも解消し,マニュアルを見直したことで多能工化への様々な効果が出ています。

(月刊 人事マネジメント 2022年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
東京工業大学卒。国内シンクタンクにて、都市計画等の調査業務に従事。その後、株式会社インクスにて、設計支援システム導入や、製品開発プロセス改革や、業務分析のプロジェクトリーダーを歴任。同社マネージャー職を経て、2011年1月インクスを退社。同年2月に株式会社スタディストに参画。

>> (株)スタディスト
  https://studist.jp/