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人事部門のAI活用の可能性

(株)リンクアンドモチベーション プロダクトマネジャー 藤田理孝

 2022年11月にリリースされた『Chat GPT』は瞬く間に利用者数を増やし,2ヵ月で全世界の利用者数は1億人を超えました。これを皮切りに各社がAIを活用した様々な新サービスの提供を開始。空前のAI競争時代に突入しています。一方で,急に「AI活用」と言われてもどのように取り入れていけばいいのか疑問は尽きません。人事部門では,この技術進化をどのように活用していけるのでしょうか。

■AI活用は3つのステップで

 まず,AIを人事業務に活かす3つのステップをご紹介します。
 ステップ1は「データの蓄積」です。LinkedIn社が発表した,求人の基本情報に合わせてAIがジョブディスクリプションを生成するサービスのように,すでに人事関連の多くのシステムにAI技術が組み込まれ始めています。今後も様々なAIサービスが増えることを見据えると,まずはAIが取り扱える形で自社データを保存・蓄積することが重要です。ただし,保存すべきデータは,これまで人事情報として取り扱ってきたものに限りません。近年のAI技術進化のポイントの1つは,「規則性のあるもの」だけでなく「言葉」をデータとして扱えるようになったことです。具体的には,採用人数や評価点,退職率などの数値データだけでなく,オンライン会議を録画した動画データや,社内に眠るナレッジ等も含めたデータ化がポイントになるでしょう。
 ステップ2は「人事の業務効率化」です。現代のAIは10歳児と同等程度の知性レベルといわれ,時間やモチベーションに左右されずに仕事を進めることができます。これまで非効率だった業務や手の届かなかった業務,例えば議事録やまとめの作成に加えて,現在は職場の問題相談においてもAI活用が広がっています。リンクアンドモチベーションでは,従業員エンゲージメントの向上を支援する「モチベーションクラウド」内に新たに「AI組織改善アドバイザー」を搭載しました。簡単な質問であればAIが答えてくれるため,人事が相談に乗らずとも管理職が自組織の改善を自走して進められようになりました。今後も,人事の既存業務を代替していくようなサービスは増える見込みです。
 ステップ3は,「独自データによる価値創出」です。人的資本経営が注目される昨今,人事に期待される役割は,オペレーション業務だけではなく,経営や事業部門と連携した変革の推進へと広がりつつあります。社内に蓄積される採用・配置・評価などの人事関連データとAIを掛け合わせれば,自社の事業特性に適応した独自の示唆を抽出できるでしょう。例えばサイバーエージェント社からは,新卒社員配属を決める自社製のAIシステムを導入したというリリースがありました。AIの活用が進むことによって,組織配置の提案や離職の予測も可能になるでしょう。

■AIを“知のロケット”として活用する

 かつてスティーブ・ジョブズは,コンピューターを知の自転車(Bicycle for the Mind)と呼びました。『人間は移動に優れた動物ではない。しかし,自転車という道具を使うとその能力を引き上げることができる。つまり,自転車は人間にとって能力を拡張する道具である。コンピューターとは,まさに知性にとっての自転車,知性を拡張する道具である』と。AIと聞くと,映画さながら「人間 vs. AI」という構図が頭に浮かびますが,AIを道具として活用できるかどうかは私たち次第です。自転車よりも遠くに連れて行ってくれる道具が生まれた今,AIを知のロケット(Rocket for the Mind)と捉えることがAI活用の第一歩かもしれません。

(月刊 人事マネジメント 2023年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
2016年リンクアンドモチベーションに入社後、中堅・ベンチャー企業向けの組織コンサルティングに従事。組織戦略・理念・制度・採用・風土の設計〜実行をワンストップで支援。その後、ITプロダクトのプロダクトマネジャーに職種転向。人事領域の知見に加えてテクノロジーの力を用いることで、人的資本経営を推進するプロダクトの拡大・立ち上げを牽引する。現在は、生成系AIをはじめとする最新テクノロジーの活用、社内のDXの推進も行う。

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