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社員の成長を支援する考課制度を

一般社団法人成長企業研究会 代表理事/ HOPグループ 代表 小川 実

 「ホワイトすぎる会社を辞める若者」が話題になったのを覚えているでしょうか。あまりにもホワイトな職場は“ぬるい”と感じられ,かえって離職を招くというのです。若者が“ぬるさ”を嫌う真意は,“成長できないことへの恐怖”にあるといわれます。若者自身が高い成長欲求を秘めていることがうかがえます。では,どうすればその成長欲求に応えることができるのでしょうか?

■社員が成長する仕組みとは

 社員に成長してもらうために大切なのは,手取り足取り教えることでも,「見て覚えなさい」と突き放すことでもありません。「成長できる環境」を提供することです。その土台となり,どんな会社でも提供できるのが,実は人事考課制度です。
 人事考課制度というと,社員を査定し処遇を決定するための手段,と思われるかもしれません。しかしそれでは不十分で,社員を成長させ,さらにいえば幸福にするためのものといえます。ですから「どう評価するのか」ではなく,「どう成長してもらうか」へと視点を大きく変える必要があります。
 会社を大きくしようとするとき,必ず直面するのが「仕組み化」の壁です。多くの会社は仕事のルールやマニュアルを作って業務を効率化しようとしますが,それによって社員がやる気を失ったり,いつの間にか形骸化してしまったりするケースも珍しくありません。
 その背景には,人事考課制度という「成長の仕組み」ができていないことがあります。経営の仕組みには,「作業の仕組み」「事業の仕組み」「成長の仕組み」の3段階があり,まず取りかかるべきなのは成長の仕組み作りです。

■人事考課制度を策定・運用するポイント

 人を育てる人事考課制度作りのポイントは,結果だけでなくプロセスを評価に組み込むことです。
 例えば評価面談で「来期こそ売上目標を達成しよう」というとき,よくあるのは「営業のアプローチ数が課題だから,月間50件を目標にしてみよう」などというフィードバックです。きちんとプロセスに関与しているように思えるかもしれません。でも社員には,どうやって月間50件を達成するのか,そして50件アプローチするとなぜ売上目標をクリアできるのかが,実は腑に落ちていない場合があります。こうした部分まで評価に組み込む必要があります。
 その際,社員の納得度を高めるためには,制度を作る段階から全社員を巻き込んでいくとよいでしょう。具体的には,現在の業務・作業の内容をこと細かくヒアリングしていくと効果的です。これにより現状とゴールまでのステップがはっきりするのはもちろん,社員が自分で答えていくことで“自分事”として捉えてもらえるからです。それを起点にして,社長や上長は「どんな人になってほしいか」「何を求めているのか」を言語化して評価基準に落とし込んでいきます。手間はかかるかもしれませんが,こうして成長の道筋を人事考課制度として表現することが,社員のモチベーションや納得感につながるのです。
 規模が小さな会社の場合は人事担当の人手が足りず,社長もそこまで制度設計に時間を割けないケースもあると思います。そんなときには,ぜひ社会保険労務士(社労士)などの専門家に協力を相談してみましょう。賃金テーブルの作り方やグレードの設定の仕方など,基本的なところはお任せできるはずです。そのときは,給料が上がりすぎて赤字になってしまったなどということが起きないように決算書が読める社労士か,あるいは税理士にも手伝ってもらって制度設計を進めましょう。

(月刊 人事マネジメント 2024年2月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1963年生まれ、岐阜県岐阜市出身。河合会計事務所、野村パブコックアンドブラウン(株)勤務を経て、2002年に税理士法人HOPを設立。現在は社会保険労務士事務所HOP、行政書士法人HOP、(株)ワンストップHOP、(株HOPコンサルティングを加えてHOPグ ループを形成。3資格の総合的な経営コンサルティングで、中小企業 のかかりつけ医として経営者のサポートを行う。2020年には一般社団法人 成長企業研究会を設立。小さな会社の成長こそが日本を元気にするという理念のもと、経営の仕組み化を支援 している。著書に『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(アスコム)。キックボクシングのプロライセンスを持ち、現在もRISEなどの団体でレフェリーを務める。

>> 一般社団法人成長企業研究会
  https://seichokigyo.jp/