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入社後ミスマッチを防ぐには

ICVコンサルティング(株)取締役 常務執行役員 HR事業本部長 三浦妙子

■入社後ミスマッチと早期離職という負の構造

 新卒採用において,多くの企業が直面しているのが,応募者を集めることを優先するあまり,職場環境や業務の実態を十分に伝えられていないという課題です。学生は,企業が提供する情報を基に就職先を選びますが,多くが「リアルではない」と感じ,「入社してみないと分からない」という不安を抱えています。そのため,「もし合わなければ転職すればよい」という意識が広がっています。こうした背景から,退職代行サービスの利用増加が顕著になっています。特に入社直後や大型連休明けには依頼が急増しており,2025年1月には過去最多を記録しました。入社後のギャップや,採用時の情報不足が原因とされ,これを解消するためには,採用活動における情報の透明性の向上が求められます。
●本音を伝える採用活動の重要性
 入社後のミスマッチを防ぐためには,「本音を伝える採用活動」が不可欠です。職場の実態や社員の日常業務を正直に発信することで,新卒入社者が将来の働き方を具体的にイメージできるようになります。筆者が大学生の就活相談に乗るなかで実感するのは,「リアルな情報を提供する企業に好感を抱く」という声が多いことです。この透明性が,企業に対する信頼感を生み出し,採用活動の質を向上させます。
●リアルな情報を伝えるための工夫
【具体例1】現場社員との座談会の実施
 実際に働く社員が参加し,仕事の楽しさだけでなく,大変な点も正直に伝える座談会を開催することで,学生は入社後のギャップを減らせます。例えば,人材業界の場合,派遣社員の急な退職に対して迅速な対応が求められる厳しさがある一方で,マッチングが成功した際の感謝の言葉にやりがいを感じるといったエピソードの共有が可能です。このようなリアルな体験談を通じて,学生は職場の一面だけでなく,多面的な理解が深まります。
【具体例2】インターンシップによる実体験の提供
 業務内容や社風を体験できるインターンシップは,入社後のミスマッチを減らす効果的な手段となります。特に,OJT形式のインターンシップは,社員と共に業務を体験することで学生がリアルな業務内容を把握し,自分に合った職場かどうかを判断する材料となります。ある企業では,25日間のインターンシップを実施し,実際の業務を体験した後に選考エントリーさせることで,入社後の不安を軽減しています。

■職場のリアルと長期的価値を伝える

 企業が自社の課題や働く環境を正直に伝えることは,新卒入社者との信頼構築につながります。特に,動画を活用して社員の日常業務や1日の流れを紹介すると,職場の雰囲気をリアルに感じてもらえます。また,求人ページに「第三者の視点」を取り入れることで,客観的かつ説得力のある情報提供ができます。さらに,長期的な価値の提示も重要です。例えば,働く環境の現実を伝える一方で,キャリア形成や成長の可能性についても明示できれば,新卒入社者は「長く働ける職場」という安心感を得られます。
 採用活動でのリアルな情報発信は,短期的な採用の成功だけでなく,企業の長期的な成長を支える重要な戦略です。透明性のある採用戦略を通じて入社者と信頼関係を築き,長期的な価値を提供することで,企業は「入社ミスマッチ」や「早期離職」のリスクを軽減できます。今後,企業は「リアルな情報の提供」と「長期的な価値の提示」をバランスよく行うことで,信頼される採用活動を実現し,企業の未来を支える人材を獲得していけるでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2025年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1975年 東京都生まれ 大学卒業後、自動車教習所に新卒入社し、教習指導員資格を取得の上、教習指導員を経験。2001年三井物産系列人材サービス会社に入社。人材教育部門にて社内教育研修のほか、外部研修講師や外部覆面調査業務など幅広く経験。2019年外国人教育会社を経て、2020年、ICVコンサルティング(株)の取締役に就任。現在、新卒採用支援事業の責任者に従事。

>> ICVコンサルティング(株)
   https://www.icv-consulting.co.jp/





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