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書評 2010.07

課長の品格

 「MTP(Management Training Program)」は1940年代に在日米軍で企画され,その後,高度成長期の日本の課長たちを鍛えてきた。この手法に基づいて,中間管理職がとるべき姿勢・行動を現代版に改めて整理したのが本書だ。適切な学習機会のないまま管理職に配属され,プレイングマネジャーとして実務を担い,組織目標の達成と部下指導の責任を負う現代の課長はかつてなく厳しい立場に追いやられているとの認識が著者にはある。それでも,基本に立ち返れば,課長の任務とは,「仕事と人の管理」に尽きるとし,その神髄は50年経っても変わらないとも述べている。実際,本書では「管理」「問題解決」「教育」「人間関係」「マネジメント力強化メソッド」の各章ごとに,必要なことをすべて要領よくまとめている。これらの内容を確実に理解し習得できたとすれば,読後のスキルやマインドの向上は歴然であろう。いきなり現場に放り込んでノルマで締め上げる前に,ぜひとも1冊渡し(できればこれをテキストに研修を実施し)ておきたいところだ。

●著者:梅島みよ  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2010年5月27日
●体裁:四六版/248頁  ●定価:1,200円(税別)

「見せかけの勤勉」の正体

 外から「やる気を出せ」と言われると人は脱力する。しかし,ファイトを態度で示さないと評価に響く職場では,脱力感を隠し,長時間残業や有休取得の返上といった形で「見せかけのやる気」を蔓延させてしまう。日本の職場に少なからず見られるこの手の滑稽な構造をとらえて著者は「やる気のパラドックス」と名付けている。本来の「やる気」は内発的動機に基づき周囲のことも忘れて集中しているときに発揮されるものだとし,会社・上司は外から余計な策を弄さず,ただ阻害要因を取り除いてやればいいと訴えている。具体的には「残業」「目標」「過剰管理」「人間関係」「不公平処遇」の5つを“足かせ”に挙げる。パラドックス改善策の1つは管理者が肩の力を抜くことだとも述べ,力ずくで部下を追い込むのではなく,近づいたところをすくい上げる“金魚すくいの法則”を紹介している。また,有給休暇の買取りを解禁すれば,忠誠心の厚い社員ほど会社に迷惑をかけまいとして取得率向上に寄与するのではないかと,ユニークな逆説提案も綴っている。

●著者:太田 肇  ●発行:PHP研究所/2010年6月1日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

適正人員・人件費の算定実務

 「自社の人員数・人件費は過剰か,妥当か,不足か」との質問に対しては「何となく多い(少ない)ような気がする」という程度の回答がせいぜいで,水準を把握できている経営・人事担当者は少ないと著者らは見ている。製造現場には1円単位のコスト効率を求める一方で,人員数・人件費については合理的・科学的分析の対象外に置いているとし,タブーに踏み込み,適正水準を明らかにしようというのが本書の狙いだ。基本的に適正人件費は財務および経営計画から,適正人員数は業務分析や労働生産性から導く。もちろん個別の会社事情によって条件は異なり,例えば売上伸長を優先するなら営業部門では増員が前提になる。また,人件費の下方修正が避けられない場合も,モチベーションには考慮が必要だとし,いくつかのオプション施策を提示している。ハイパフォーマーには労働市場(平均賃金)を上回るように,ローパフォーマーには下回るように賃金制度を設計し,惹きつけと代謝を同時に機能させるといった戦略的示唆も淡々と解説している。

●編著者:潟gランストラクチャ  ●発行:中央経済社/2010年6月1日
●体裁:四六版/227頁  ●定価:2,600円(税別)

会社をつぶす経営者の一言

 「私は寝てないんだよ」「時速60キロで走るところを67,68キロで走ったようなもの」―といった不祥事会見における「失言」を考察した1冊だ。事件を並べてみれば,食肉偽装,リコール隠し,ささやき女将,と確かにいろいろあった。本書ではこれら事例を,@部下,従業員に責任を押しつける経営者,A世論を敵にまわす「KY」発言,B「殿」を守って会社をつぶす,C「本音」むき出しの居直り会見,D火に油を注ぐ,あんまりな一言,Eあっぱれ見事な記者会見,の6つに分類し顛末を追っている。不祥事を題材にしながらメディア分析も試み,会見の巧拙が総報道時間に比例すること,そしてその差が事業の存亡を左右している実態も見つけている。どの事件も消費者・被害者の立場からすると改めて怒りのこみ上げてくる内容だが,時間が経過した今,会見当事者側の苦しい舞台裏も少し見えてくる。企業人としては好奇心を満たすにとどまらず,リスクマネジメント,広報対応,また経営姿勢そのものの学習材料に活かす余地のありそうな内容だ。

●著者:村上信夫  ●発行:中央公論新社/2010年6月10日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:820円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki