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書評 2010.08

MBB:「思い」のマネジメント

 「MBB:Management By Belief」とは著者らの造語だ。“思い”“信念”をもって仕事や夢に取り組む姿勢を再評価しての命名と推察される。これに先立ち著者らは日本企業が経験した失われた20年を捉え,スリム化やグローバル化の徹底はつらいだけではなかったかと振り返る。そしてこの間に失った“仕事の面白さ”“仕事を通じた成長”“社会貢献”といったアナログ的領域の価値観に再度注目しようとメッセージを綴る。例えば,MBOにおける数値目標は経営者の語るストーリーに裏打ちされてこそであり,“思い”と無関係に数字を押しつける運用は誤りだと批判する(高いハードルを越えようとするとき,そこには夢の要素が必要だとの指摘はまさに正鵠を射ている)。続けて本書は“MBB実践者”を6事例紹介し,困難な時代にも卓越した成果を挙げている逸材たちの心的領域にも詳しい考察を加えている。一方,企業には人を工数としてのみ見るような創造性への配慮を欠いたマネジメントを退け,「個」を取り戻す仕組みを導入するよう求めている。

●著者:一條和生/徳岡晃一郎/野中郁次郎  ●発行:東洋経済新報社/2010年7月1日
●体裁:四六版/263頁  ●定価:1,800円(税別)

社長でなくても変革は起こせる!

 大手宅配事業会社で様々なプロジェクトを立ち上げてきた著者が,社内変革の起案と推進についてアドバイスを綴っている。たいていの変革事案は「総論賛成・各論反対」に終始し,反対派の切り崩しに多大なエネルギーを費やすことになる。本書には説得場面でのテクニカルな手法がいくつも紹介されているが,そのすべてが実体験に基づいているので非常に生々しい。例えば,反対派の役員などには,あえてファジーな要素を残したままいったん引き下がるのだという。そしていざトップの決裁が下った際は「あれは反対ではなく解釈の違いだったのでしょう」と言い訳が成り立つように配慮し,その後の改革推進で協力を得るのだという。ここまで手は込んでいないが「いきなり企画書を持ち出すのではなく,日々の雑談から上司を慣らしていく」「共通の敵を作り団結を図る」「『現状がダメだ』とは言わず『さらに良くなります』と表現する」といった手法も紹介されている。部門・階層が複雑に絡み合う日本的組織ならではの実践ヒントが盛りだくさんで面白い。

●著者:青田卓也  ●発行:日本経済新聞出版社/2010年7月8日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:850円(税別)

残業させないチーム仕事術

 「整理・整頓」「見える化」「ムダトリ」といったキーワードを手がかりに,チームの生産性を高める手法を整理している。といっても個人のガンバリによって作業効率を高めるのではなく,仕事そのものの必要性を疑い,大胆にやめる(減らす・変える)方法を模索する内容だ。実際,仕事の洗い出しを始めると「会議」「メール」「検索」「捜索」といったムダが次々見つかるという。念のための会議出席,メーリングリスト方式による大量の情報配信など,ムダはいつのまにか肥大する。意外なのは「検査業務」で,ミス防止のために確認担当者を増やすと,相互に油断し,かえって精度は落ちるのだという。
 「整理・整頓」ができていれば書類捜索はなくなる。また,「見える化」が実現すれば,進捗会議も報告書もいらなくなる。よって余計な仕事が減れば残業もしなくて済むだろうとの発想である。残業代を巡る労務問題からいったん離れ,仕事の目的や成果の定義から見直すアプローチは,人事担当者にとって目からウロコの示唆となるかもしれない。

●著者:石谷慎悟  ●発行:明日香出版社/2010年7月17日
●体裁:四六版/221頁  ●定価:1,500円(税別)

「いい会社」とは何か

 企業は「利益を追求する集団」であるとともに「信頼感のある共同体」であるはずだと著者らは述べる。経営人事・雇用事情の変遷を中・長期で振り返りつつ,その間,職場から「信頼」の価値が低下し続けていることへの危機を指摘している。その上で章を改め「いい会社」とは何かを探り,分析指標に「財務」「長寿」「働きがい」の3つを挙げている。そこから導かれる「いい会社」の条件は4つ(@時代の変化に合わせて自らを変革させている,A人を尊重し,人の能力を十分生かすような経営を行っている,B長期的な視点で経営を行っている,C社会の中での存在意義を意識し,社会貢献を行っている)。―これについて「驚きの事実はない」と地味に総括する通り,淡々とした記述に貫かれているのも本書の特徴だ。扇情的な主張を盛ることなく,経営人事を取り巻く現在地を的確な課題意識をもって考察し,終始抑制気味に,よく練られた平易な文で綴っているため,最後まで安心して読める。「やりがい」の復権を静かに説く姿勢にも共感できる。

●著者:小野 泉/古野庸一  ●発行:講談社/2010年7月20日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki