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書評 2010.10

部下を自立させる上司の技術

 フォロワーシップは部下の側が発揮する能力で,上司のリーダーシップと対概念の関係にあるとされる。しかし,組織にフォロワーシップを普及・機能させるのも,やはりリーダーの役目ではないかと著者は述べている。部下が単に追随者であってはフォロワーシップは機能せず,いかに忠誠心が厚くても,主体性や自発性が発揮されなければ,その組織は“一致団結して迷走する愚”を犯してしまう。従って,あるべきフォロワーシップでは「貢献度」と同時に「批判力」が求められるとし,この2 軸を基準とするマトリクスで部下を,@実践者,A破壊者,B協働者,C従属者,D逃避者の5つに分析する手法を紹介している。その上で,一方的に部下のフォロワーシップを求めるのではなく,常にメンバーに働き掛け,巻き込んで,自立したフォロワーシップを組織内に形成していくステップを解説している。先が見えず前例も通じない今はリーダーがしっかりするだけでは空回りする時代。本書は混迷期におけるタイムリーな啓発教材となるだろう。

●著者:吉田典生  ●発行:PHP研究所/2010年8月3日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:800円(税別)

人物鑑定法

 エグゼクティブサーチを本業とする著者は5,000名を超える経営者やエグゼクティブらと会い「ふさわしい力量を持つ人々を見抜いてきた」と語る。卓越した人材は何が違うのか,あるいは“困った人たち”は何がいけないのか,著者の体験をベースにした興味深いトピックが並ぶ。例えばヘッドハンターとして本物を見抜くとき著者は「言葉の重み」に注目するという。自ら挑戦体験を重ねてきた人と,お手軽に書籍から仕込んだ知識だけで語る人との違いは歴然だという。あるいは夢を語る場合,「そのために今何か行動している人」と「夢のままで何もしていない人」の違いに説得力の差が出るとも述べている。相手に関心を持ち,視線を合わせ,いつも笑顔で,周囲への気遣いも欠かさないといったデキるビジネスパーソンの特徴を掲げる一方で,話が面白くてポジティブに過ぎる場合は実行力が追いつかず,後々迷惑を被る可能性があると注意も促す。人事担当者が逸材を見抜くときというより,営業担当者の商談コミュニケーション研修などで役立つかもしれない。

●著者:井上和幸  ●発行:経済界/2010年9月7日
●体裁:新書版/220頁  ●定価:800円(税別)

日本でいちばん働きがいのある会社

 Great Place to Work Institute は世界44ヵ国3,800社・150万人の従業員を対象に意識調査を行い「働きがいのある会社ランキング」を発表している。そこにランキングされた日本企業25社のうち10社の取り組みをレポートしたのが本書だ。各社の代表責任者らが自ら語る構成で,様々な社内制度の導入背景と運用状況を紹介している。冒頭,各社に共通するキーワードとして「信頼」「誇り」「連帯感」の3つが挙げられているが,個々の事例ではそれぞれの独自性が際立つ。すなわち,強い理念に共鳴した人材を厳選採用していたり,一人ひとりを尊重する社内文化が機能していたり独創的な仕掛けがあって,その上に制度が運用されているイメージである。また,中途採用者が9割を占める会社だから連帯感に価値を置くといったように会社の物語と経営姿勢が不可分の関係にあるのも特徴的だ。若い会社が大胆な施策を打ち出す一方で,老舗企業がベンチャースピリッツを活性化せていたりもする。人事制度を企業文化から考える機会を提供してくれる1冊といえる。

●編著者:和田 彰  ●発行:中経出版/2010年9月17日
●体裁:四六版/271頁  ●定価:1,300円(税別)

就活の勘違い

 娘さんの就活を契機に「父」として,また「元・人事担当者」の立場から,著者はメッセージを綴っている。主に学生向けにまとめられたものだが,採用責任者のホンネや舞台裏が語られ,人事担当者または親として改めて就活の状況を把握する上で参考になりそうな内容だ。まず,就活を巡る学生側の誤解の1 つが「正解を探す」思い込みだと指摘されている。企業側には求める人材像や能力要件といった目安がある一方で,内々定を出す時期や応募状況などによって実質的な採用基準はしばしば変動する。従って,就職活動はタイミングや相性といった「運」の要素が多分に支配する世界であるとの認識が大前提として求められると述べている。また,マニュアルに頼り,自分を良く見せようと武装すると肝心のコミュニケーションが成り立たなくなり,選考対象から外れるとも危惧する。多様な情報が錯綜し,かえって選択を難しくしている就活の現状,そして「就活統括表」でスケジュール管理をこなしていく学生側の実態が垣間見られる。

●著者:楠木 新  ●発行:朝日新聞出版/2010年9月30日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:740円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki