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書評 2010.11

リストラウォーズ

 「夜11時まで帰るな」「仕事に集中できない部下を恋人から別れさせろ」「職場研修は早朝出勤でやれ」「平日は部下指導,自分の仕事は土日を使え」「しめしをつけるため大声で怒鳴れ」−−外部の人間からすれば異常極まりない職場だが,日々追い込まれている当人にはその異常さに気づく暇もなかったのかもしれない。シングルマザーの主人公は,セクハラ・パワハラ・過剰労働・労働時間改ざん・残業代未払いといった劣悪な環境で,なおも頑張ろうとした矢先,オフィス内で倒れる。病名は「急性くも膜下出血」だった。しかし,会社は労災申請せず,復職後もオーバーワークを課し,そしてリストラに。あらゆる労働問題を1人で背負い込んだような物語だ。その後,弁護士の協力を得て,労災認定,残業代請求,慰謝料請求を巡る戦いが始まる。個々のエピソードごとに法律監修者の解説が挿入されており,人事担当者なら“やってはいけないケーススタディ教材”として読めるはずだ。それにしても,語られる職場の悪質さには不快感を禁じ得ない。

●著者:エム  ●発行:マガジンハウス/2010年9月16日
●体裁:四六版/204頁  ●定価:1,300円(税別)

叱り方ハンドブック

 打たれ弱い部下,逆ギレする部下,言い訳する部下……今は叱ることの難しい時代だ。叱る側にも,嫌われたくない,余計なトラブルは避けたい,といった気持ちが働く。しかし,必要な場面で叱らなかった場合,部下にとっては無視に等しく,また,成長の機会を奪うことでもあると著者は指摘する。そこで本書ではタイプ別,シチュエーション別に計104の会話パターンを示し,叱り方を具体的に教えてくれる。ありがちな失敗では,他人と比べて劣る点を指摘し,ますます本人の意欲を失わせてしまうケースがある。この場合は,将来や期待するレベルに対して現状とのギャップを比較させるとか,「どうしたら良いと思う?」と質問の形で反省を引き出す方法がベターだとされる。上手に叱るためには「事実を捉え,ねぎらいの言葉を掛け,改善を伝える」といったシナリオがポイントになるが,テクニックだけではすぐに見透かされるとも警告している。つまり,日頃から“叱ってもいい関係”を築く必要があるのだ。職場のリーダーたちに手渡したい1冊。

●著者:齋藤直美  ●発行:中経出版/2010年9月23日
●体裁:四六版/272頁  ●定価:1,500円(税別)

仕事を通して人が成長する会社

 地方企業(特に福井県)を中心に長年中小企業を定点観測してきた著者は,「ふつうの人がふつうの働き方をして幸せに暮らせる状態」に普遍的な価値を見出そうとする。幸福感の定義自体が困難ではあるが,本書ではインタビューを通じて「働くことが楽しい」と回答した人物・企業を紹介している。50代・60代の技術者が海外工場で活躍する会社。世界同時不況の影響も軽微で地域の雇用を守っている地場産業。量の勝負はせず,質の改革で生き延びている老舗企業。−−いずれもマスコミで話題になったり就職ランキングに載るような会社ではない。また,特別の人事戦略を仕掛けているわけでもなく,30代・40代の中途採用を受け入れ,60代・70代でも働く場所のある数十人規模のふつうの会社である。格差社会,就職氷河,ネットカフェ難民といった社会問題として語られる報道は,雇用の本質を表していないのではないかと著者は疑う。一方で,ふつうに幸せに働けるための絶対解も存在しない。ただ,その輪郭は本書から浮かび上がってくるようにも思える。

●著者:中沢孝夫  ●発行:PHP研究所/2010年9月29日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:720円(税別)

教育研修ファシリテーター

 従来の研修講師・研修インストラクターは“1対多”の関係で,受講者に一方的に講義・指導するイメージがある。これに対して,教育研修ファシリテーターには,参加者個々人とそれぞれの関係性に働き掛け,組織全体の活性化を図る役割があると著者らは述べている。また,教室運営にとどまらず,研修企画の初期段階から関与し,学習の促進・支援を総合的に担う立場とも位置づけている。ファシリテーターの関与する研修では,参加者が主役とされ“何を学びたいか”も当事者から引き出すことになる。そして,プログラムの実際は,@レクチャー(講義),Aワークショップ(協働),Bリフレクション(省察)の3つの組み合わせが基本とされ,本書には各セッションの狙いや進め方が詳しい。
 サンプルプログラムのほか,事前準備チェックリスト,座席パターン,ホワイトボードの使い方など実践的な資料も掲載され,研修担当者にとっては部分的にでも役立ちそうな内容がありがたい。参加者を眠らせず,効果のある研修を実現する仕掛けが満載だ。

●著者:堀公俊/加留部貴行 ●発行:日本経済新聞出版社/2010年10月13日
●体裁:四六版/239頁 ●定価:1,700円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki