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書評 2011.02

即戦力は3年もたない

 幹部社員の育成には10年・20年の時間が必要であり,中途採用で手取り早く見つけてくればいいとする考えは幻想であると著者は述べる。同様に個人の側にも「キャリアアップ転職」は幻想だと警告している。なぜなら,上位20%に相当するような真に優秀な人材は企業が手放さず,転職市場には出てこない現実があるからだ。一方で,転職者を有効に活用する方法はあるとも語る。それは「賞味期限」を前提に,持てる能力(過去の経験・スキル)を発揮してもらうスタイルになる。つまり,組織への忠誠や将来のキャリアなどには多くを期待しない。そして,ビジネス環境次第で市場価値が陳腐化するリスクも承知の上での活用になる。もっとも,本書の内容は“即戦力に対する割り切り”が主旨というわけでもない。ポートフォリオによる人材戦略の組み立て方,採用面接の要点,面接担当者の人選,人を見抜く質問方法ほか,実践ノウハウにも多くのページを割いている。採用のプロよる経験に裏打ちされたアドバイスが,迷える人事担当者の救いになりそうだ。

●著者:樋口弘和  ●発行:角川書店/2010年12月10日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:724円(税別)

これだけ! OJT

 OJTは対象者である新人を育てる仕掛けであると同時に,指導する側の先輩社員(いわゆるOJTリーダー)を成長させるきっかけにもなる。「場当たりではなく,目標を定め,計画的に育成する」というセオリーはよく知られているが,それをどう現実の指導に落とし込んでいくかは案外難しい。本書はそのリアルな機微を詳しく整理し,OJTリーダーの皆さんに役立つよう構成されている。例えば,新人には1 から10までをすべて教える必要はなく,目指すゴールと要点をいくつか示すことで自ら応用して成長していけようになると,著者の体験ベースのノウハウも紹介している。また,何を教えるかを突き詰めていくと,業務に必要な能力を洗い出す作業になり,一連の仕事の棚卸しが組織にもリーダーにもメリットをもたらすとされる。OJT計画の作り方,業務マニュアルの作り方,新人のモチベーションの高め方,職場を挙げてコミュニケーションを深めみんなで育てていく方法など,今の時代にフィットするヒントが盛りだくさんだ。

●著者:中尾ゆうすけ  ●発行:すばる舎リンケージ/2010年12月18日
●体裁:四六版/216頁  ●定価:1,400円(税別)

コスト削減の罠

 「コスト削減」というとき一般にはマイナスの印象がつきまとう。特に現場からすると,縮小均衡で成長が絶たれ,節約で我慢を強いられ,さらには人員削減の恐怖さえ頭をよぎる。コストマネジメントのプロである著者は,確かにビジョンなきやり方こそ最悪の姿だと指摘する一方で,ローコストオペレーション体制の構築を目指す未来創造型のコスト削減を提案する。すなわち,コストは削るだけではなく得られた成果を従業員らに配分せよと説く。そのためには,コストを@見せて,A任せて,B検証して,C評価して,D配分する,というマネジメントサイクルが鍵だとされる。また,提案制度を導入し,表彰大会を開いても,単年度のイベントでは体質改善には至らないなど,現実的な課題も挙げる。下請け叩きではなく,関係者を巻き込んで新しい仕組みを生み出していくようなポジティブな姿勢を求め,具体的な手段や事例が本書には詳しい。“人員削減ではなく知恵を絞る人づくりを目指せ”との主張には,多くの読者が共感するにちがいない。

●著者:村井哲之  ●発行:講談社/2010年12月20日
●体裁:新書版/201頁  ●定価:838円(税別)

給与明細で騙されるな

 給与明細には,総支給額のほかに,社会保険,税金,出勤日数,残業手当など様々な明細項目が記載されている。これを基に本当に適切な計算処理がなされたかどうかを従業員目線で検証しようというのが本書の狙いだ。アウトソーシングを通して100社を超える企業の実態を見てきた著者は,大企業でも,悪意がなくても「間違いはしばしば起きる」と語っている。休日出勤の扱い,残業計算の単価や割増率などはベテラン人事担当者にはおなじみのポイントだが,それでも基準の変更を知らなかったり勘違いしたりして,結果的に従業員に不利益な状態が放置されていることがあるという。より犯罪的な事例では,社会保険の申告額を少なくし,会社負担分を免れているケースも報告されている。といっても,本書の中心は社会保険や労働法の解説である。起こりがちなトラブルの要点を整理し,豊富な事例とかみ砕いた説明で綴られ,面白く読める。ただ,企業人読者としては「会社は騙すもの」との前提で編集されている点にいささか齟齬感を覚えるかもしれない。

●著者:北村庄吾  ●発行:朝日新聞出版/2011年1月30日
●体裁:新書版/216頁  ●定価:700円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki