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書評 2011.05

社長,「給与体系」で儲かる会社を作りなさい!

 医療器機販売会社を経営する著者は,数人規模からスタートさせ,約30年で100人を越えるまでに成長させてきた。この間,人材定着の課題には悩まされ続けたと語り,その解決の鍵を「給与体系」に見つけている。ワンマン経営による“気分給与体系”では社員の疑問に答えられないと気づいてからは,「ワンマンからの脱却」「ブラックボックスの解消」の2つの課題解消に取り組んできた。特徴的なのは,外部に頼らず,社員を巻き込むプロジェクトで練り上げたことだ。改革のプロセスを通し,幹部社員は評価に関与する立場を自覚。また,社員が給与と業務の関係を理解した結果,仕事の質が向上。そうすると業績が改善し,給与も上がり,定着率も高まるという好循環が生まれる。制度設計の実際では現場の意見を踏まえ,営業系には成果要素を,事務系には勤続要素を,それぞれ厚くしている。さらに利益処分の割合(税金・内部留保・賞与)もオープンにして透明度を高めている。給与改革を切り口に会社の仕組みを変えていく実践レポートが勉強になる。

●著者:渡井康祐  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2011年3月14日
●体裁:四六版/176頁  ●定価:1,200円(税別)

「働くこと」を企業と大人にたずねたい

 著者は新日本製鐵と新日鉄ソリューションズで30年に及び人事・労務に携わってきたキーマンだ。ならば,ベテラン人事マンの現場目線の実務ノウハウが学べるかというと,実は本書は全くの別物である。人事・労務の枠を大きくはみ出し,会社も国境も時間も超越したところから改めて「人」と「働くこと」を問い直す,極めて哲学的なアプローチによる“思索の旅”といえる内容に仕上がっている。繰り返し問われているのは「『良き企業』とはどういう企業か」「『良き企業人』とはどういう人か」「『良き企業人』にどうしたらなれるのか」「『良き社会』とはどういう社会か」の4点。現代人の課題については「生き甲斐の喪失」「つながりの喪失」「企業活力と暮らしの土台の喪失」の3点を挙げ,これらを封印し,人を大切にする社会を実現するためにどんな姿勢,意識で社会に関わっていくべきかを独自の遠近感で捕択しながら,さらに深部へと探索していく。脳内を縦横無尽に行き交う筆運びが面白く,その飛躍を素直に楽しめれば読む価値は大だ。

●著者:中澤二朗  ●発行:東洋経済新報社/2011年3月15日
●体裁:四六版/244頁  ●定価:1,500円(税別)

2013年,日本型人事は崩壊する!

 60歳に達しても厚生年金が全く支給されなくなる2013年を,著者は人事制度の転換点と見据える。企業は雇用延長をせざるを得ないとしても,賃金原資をシルバー世代に回せば,それだけ現役世代が圧迫される。従って,人事報酬システムの全面的見直しが迫られるだろうと近未来を予言する。その際,後ろ向きの対応を重ねるだけでは,グローバル競争に敗れると危惧し,活力を取り戻す前向きな制度設計を本書に提案している。報酬面では,若手には年齢比例で厚く安定させ,中年以降は伸びる人と,横ばいにとどまる人とで複線化する。また同一職務なら給与が変わらない仕組みとし,中堅の成長意識を刺激する一方で,高齢者には実力処遇の担保として機能させる。成長期待とリンクする人材育成では,計画的,積極的に教育機会を提供する体制を求める。キャリア支援では,経験豊富で仕事好きな高齢者を“銀の卵”と位置づけ,リタイヤするまで成長意欲を発揮できるよう「70歳現役」を前提とした取り組みを訴えている。気づけば,2013年まであまり時間がない。

●著者:佐藤政人  ●発行:朝日新聞出版/2011年3月30日
●体裁:四六版/254頁  ●定価:1,500円(税別)

働き盛りがなぜ死を選ぶのか

 日本ではこの13年間で42万人が自殺しており,「その1/3はデフレがもたらしたものだ」と精神科医の著者は分析する。とりわけ働き盛りの中高年の自殺は,歴史的にも地域的にも特異現象だと捉え,その病根を「賃金デフレ」に見つけている。現在の日本を覆う“実態以上の弱気”をうつ症状の貧困妄想に重ね,精神疾患と同様「人々に取りついた悲観的な認知を修正する必要がある」と述べる。しぼんだ風船(うつ状態)を正常な状態に戻すためには適度な陽圧が必要だとし,実質3%程度の経済成長が望まれると数字を弾き出している。一生働いてもマイナス資産しか築けない現状を“バックで走り続ける無理”と表現し,安全速度でいいから前を向いて運転できるようにすべきだと政策転換を訴えている。また,賃金デフレと並ぶ雇用不安については,完全雇用社会のモデルをスイスの事例に求め,職業教育の必要性にも言及する。実際,経済は人々の期待感で動く。異常な自殺者の輩出に企業の人事政策が荷担していないか,じっくり自問しながら読み通したい。

●著者:岡田尊司  ●発行:角川書店/2011年4月10日
●体裁:新書版/251頁  ●定価:724円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki