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書評 2011.08

再起力

 直ちに金融支援が必要というほどではいないが,今のままビジネスを続ける限り事業の行き詰まりは明白―。多くの会社が密かに憂慮しているこうした潜在的危機から,いかに再生を図っていくか,そこが本書のテーマだ。結論から言えば「改革の推進」に尽きるのだが,実践は容易ではない。優秀な経営チームで「戦略」を練り上げたところで,目標通りにいかないのはフツウである。多くの再生案件を手がけてきた著者は,課題として経営陣の“省察の不足”や“現場力不足”を指摘し,単に巡回訪問で報告を受けるだけではなく,商品・顧客・従業員のナマの動きや感覚を吸い上げ共有する必要性を求めている。また,改革では非公式の場で「個人的に賛同」しつつも,「会議の場では沈黙」する社員も多い。従って,反対派の言動も含めて人の活性化がポイントだとし,人を信じて仕事で成果を上げてもらう仕組みづくりを訴求する。「決めるだけで満足する組織」「戦略不在の経営戦略発表会」ほか44話に及ぶエピソードも説得力を裏付け,興味深く読める。

●著者:宮下篤志  ●発行:プレジデント社/2011年6月2日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

人事部は見ている。

 人事部門での実務経験が豊富な著者は,自らの体験および他社の人事担当者らの声を集めて多角的に「人事部」を考察している。格別ウラ事情を暴露するようなことはないものの,公式見解とは違う本音ベースの記述は面白い。そもそも人事の仕事は単独では成立せず,(成果主義の導入に象徴されるように)常に経営方針の反映であると位置づける。また,企業規模によって仕事内容は大きく異なり,社員1人ひとりの顔が分かり,行動予測までできるのは250〜300人規模までで,それを超える場合,個別の対応は難しいとも打ち明ける。一般社員との付き合い方では公平公正の立場からあえて距離を置き,個人情報を探るようなスパイ活動まではしない。いわゆる出世の法則については,課長クラスまでは実力主義で,その先は別の力学(出会いがもたらす運・縁)が作用すると認めている。「会社とは何か」「人事とは何か」と大きな課題も視野に入れ,今後の脱・高度成長型の人事の仕組みも見通す。人事という職務を改めて問う刺激的な論考といえそう。

●著者:楠木 新  ●発行:日本経済新聞出版社/2011年6月15日
●体裁:新書版/209頁  ●定価:850円(税別)

組織を脅かすあやしい「常識」

 大学院で経営学を教える著者は,かつて人事コンサルティング会社にて,クライアント企業の現場に関わっていた。本書はその経験も踏まえ企業で「よく耳にする問題」を17テーマにわたって取り上げ,誤解と問題の本質を深堀りしている。「うちにはビジョンがないからだめ」といった社員らの不満に対しては,ビジョンがあれば成功するのか? と問い返す。つまり,無難な単語で理念をまとめたところで,それは差別化にはならないとの指摘だ。類似の視点で「好き嫌いで戦略を決めている」との批判に対しては,行動を引き起こすのは感情だと述べ“主観”の重要性を改めて確認している。「企業文化を変えるために導入した成果主義が,当社の文化に合わないという理由で見直される」矛盾,「部門間の連携が悪いからと組織変更をした結果,新たなセクショナリズムが起きた」という矛盾―いずれも“前提”を見誤っているがゆえに罠に陥っていると警告する。「No,16 人事部はどうしても嫌われ役になる」というテーマも反省点が多そうで要注目だ。

●著者:清水勝彦  ●発行:講談社/2011年6月20日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:876円(税別)

モテる会社

 「売上げを伸ばしたい」「店を大きくしたい」ではなく「従業員やお客さんからモテる会社にしたい」という経営者のニーズに応えて著者が整理した「モテる会社10ヵ条プラス1」こそ本書の真髄だ(プラス1は「利益を出し続けていること」)。実際にモテている企業を分析し共通項を見事にまとめている。「モテる」とは,お客さんにファンになっていただき,地域に応援していただき,従業員に誇りを持ってもらえる状態を想定し,それが実現すれば業績も向上し好循環が機能するという。対象にしているのは主に数人〜数100人規模のフツウの会社で,数ヵ月〜1年程度「10ヵ条」を実践すれば何とかカタチになるノウハウに凝縮されている。理論編に続く実例編では5社の地方企業の取り組みがレポートされていて,いずれも従業員ファーストの考えが浸透している“いい話”が満載,経営の原点を再確認させられる。「モテる」とは少し軽い表現にも思われるが,取り組みには“本気”が欠かせず,著者も「最後は経営の決意と覚悟」と締めくくっている。

●著者:川上徹也  ●発行:あさ出版/2011年6月26日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki