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書評 2013.08

あたらしい働き方

 勤務時間を午後3時までとしたり,月4日の在宅勤務を認めたり,日数制限のない有給休暇を導入したり,幹部社員を1年間海外で自由に活動させたりと大胆でユニークな施策を取り入れている日米の17社+1組織への取材を敢行し,従来の型にはまらない働き方を探っている。単に取材順に並べた事例集ではなく,全体を俯瞰したうえで,「仕事」「時間・場所・休日」「給与・評価」「会社・経営者」「環境」「カルチャー」の6つのカテゴリーに分類した41の要素(クライテリア)を抽出する分析的な試みが面白い。“新次元”を予感させるのは,「働きやすさ」(全員対象のいわゆるワークライフバランス)ではなく,「働きがい」(いわばワークそのものをハッピーにしてしまう取り組み)に着目している点だ。従業員側からすると「ラクして気ままに働ける」環境では全くなく,カルチャーへの共感や相応の能力がなければ自由度を活かせない厳しさがセットになっている。そうした環境に耐えうる17のスキルを整理し,一歩進んだワークスタイルを提案している。

●著者:本田直之 ●発行:ダイヤモンド社/2013年6月6日
●体裁:四六版/313頁  ●定価:1,400円(税別)

「働く居場所」の作り方

 キャリア研究の第一人者である著者は,先行きへの躊躇や不安を抱える普通の人々に元気を与えるために本書を執筆したと動機を述べている。従って,タイトルの「働く居場所」とは,ぶら下がって安住する逃げ場所などではなく,自身の可能性をストレッチ(拡大)し,積極的に役割を作っていくチャレンジ志向の働き方を象徴している。勤労者個人には,「自己実現」という見果てぬ夢へのこだわりを捨て,日々の現場に軸足を置いた「個性化」の追求を説く(その過程ではアンラーニングやプランドハプンスタンスといった機能・作用に注目している)。一方,経営人事部門には,従来のような丸抱えの雇用責任ではなく,「自己責任型キャリア開発」を支援する役割を求めている。学説の解釈では深く丁寧な記述で難解さを回避しているほか,様々な階層から抽出したリアルな“お悩みケース”を随所に紹介し,考える材料を提供してくれている。その立体的な構成が職場目線での理解を助けてくれていてありがたい。巻末付録の「キャリア元気度診断表」もお楽しみだ。

●著者:花田光世  ●発行:日本経済新聞出版社/2013年6月25日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:1,600円(税別)

やる気もある!能力もある!でもどうにもならない職場

 20代から50代まで男女4人の深刻な会社員物語から本書は始まる。それなりに一生懸命やってきたはずだが気がつくと袋小路に追い込まれている「閉塞感」を描写し,問題の在処を探りながら,解決のヒントを多面的に模索する構成だ。組織構造的な問題では,社内人口が逆ピラミッド型になっているのに,なおピラミッド型の秩序を維持しようとする人事の矛盾を見つけている。加えて人材流動性の低さも問題を大きくしていると指摘し,人事のオープン化を進めたり,FA制の導入や外部人材を積極活用したりして流動性を高める手段をアドバイスしている。一方,個人の心理面では,安定志向に萎縮する姿勢やビジネス環境の変化に対する鈍感さを問題視し,社外でも通用する人材を目指し,どんな状況でもチャンスに変えていくしたたかさを求める。悩める勤労者への個別キャリア相談などではなく,組織に閉塞感をもたらす要因および構造的なカベを明らかにしたうえで,個人・組織・社会の3方向に処方を提言する分析的論考が説得力を伴って興味を誘う。

●著者:草間 徹  ●発行:東洋経済新報社/2013年6月27日
●体裁:四六版/271頁  ●定価:1,600円(税別)

評価の急所

 組織行動論・産業心理学を専門に研究している著者は,『ねずみの嫁入り』と『白雪姫』を引き合いに評価制度の役割を問い直し,様々な角度から矛盾点・課題点を本書に指摘している。古代中国に始まる評価制度の歴史,公平性・正確性の考察,信頼性・妥当性の関係,西洋・東洋の発想の違い,右脳・左脳の認識機能,目標管理の無理,多面評価制度の限界などトピックは29に及び,とりわけ「9つの急所」(「急所」と書いて「へそ」と読ませる)をクローズアップし整理を試みている。急所とはおそらく“問題・課題”くらいの意味で,評価機能と表裏の関係にある弱点を理解したうえで制度導入を図るのであれば,過度の依存や誤解なく運用できるだろうとの気遣いがうかがえる。1つひとつのトピックには何ら難解な記述はなく,リラックスして気軽に読める冊子に仕上がっているが,ハウツーではなく,知識解説でもなく,アカデミック論文でもない独特のとらえどころのなさは,年季の入ったベテラン人事担当者でないと味わえないテイストにも思われる。

●著者:高橋 潔  ●発行:生産性労働情報センター/2013年7月5日
●体裁:四六版/101頁  ●定価:1,000円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki