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書評 2013.09

キャリア教育のウソ

 新卒から正社員への就職を果たしても,その後の諸事情で退社や転職に至るケースは今や普通だ。企業・事業の存続自体が予測不能な時代にあって,「正社員」を絶対的な人生目標に掲げ実行計画に落とし込んでいくキャリア教育のやり方は破綻するのではないかと著者は疑う。その懐疑は「計画的偶発性理論」に行き着き,いかなる状況(フリーや非正社員)でも軸となる仕事観を持ち(ときに修正し),また常にチャンスを得ていこうとする能力こそがキャリアの鍵になるとの知見を導いている。すなわち,就職後も自己理解と職業理解を反復学習できる力を養うのがキャリア教育の役割だと示唆。次元を変えて学校教育のあり方の面から,雇用・納税・公民権といった社会の基礎的な仕組みへの深い理解促進が欠かせないと本質論を述べる。働いてもいない段階から将来像を絞り込む無理とともに,「やりたいこと」「やれること」に比べて「やるべきこと」への動機づけが欠落している現状を問題視するなど,迷走するキャリア教育に多方面から警鐘を鳴らしている。

●著者:児美川孝一郎 ●発行:筑摩書房/2013年7月5日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:780円(税別)

こうして解決する! 職場のパワーハラスメント

 明らかな犯罪的行為を除いて「パワハラ」の判断は難しく,部下が「傷ついた」と訴えても上司の指導に合理性があれば問題とはいえない。それでも現実には,職種,異動タイミング,職場環境,能力差,相性,上司の熱意・指導スタイルなど様々な事情でパワハラを疑われるトラブルは起きる。そこで本書は,組織的な対策を鳥瞰するとともに,相談者の立場,ヒアリングの進め方など具体的なアドバイスを充実させている。企業側の対策では,方針の決定,ルール化,社内周知,相談窓口の設置といった手段が定石となるようだ。しかし,解決を託される人事部門には“最終ゴールの確認が欠かせない”と著者は改めて注意を促している。すなわち,「白黒の判定を下す」「当事者を説得してパワハラではなかったことにする」「行為者を厳しく処分する」というのはいずれもゴールではなく,「適切なマネジメントの浸透」「パワハラの起きない職場作り」こそが目的のはずだと釘を刺す。考える余地は大きく,巻末に紹介された12のケースも深い理解に役立ちそうだ。

●著者:野原蓉子  ●発行:経団連出版/2013年7月30日
●体裁:四六版/119頁  ●定価:1,000円(税別)

「シロアリ社員」があなたの会社を食いつぶす

 「ブラック企業」同様,「ブラック社員」とでも呼ぶべき不良社員・モンスター社員が存在するとして,本書は「他意をもって会社に損害を与える社員」を「シロアリ社員」と定義づける。税理士事務所を運営する著者ご自身の経験から,@残業代不正請求型,A顧客引き抜き型,の2つのタイプを詳しく取り上げ,シロアリ社員の棲息実態,見つけ方,駆除法,経営者の立場からの予防策を整理している。とりわけ,退職者からの未払い残業代請求では,自ら最高裁まで争った事例を紹介。工場労働主流の時代に弱者保護目的で作られた労働法が,今や悪徳労働者の権利濫用根拠になる司法の矛盾を追及する。予防策では,サーバーログなどの記録(監視というより万一のときの証拠保持のため)や,入社時・退職時の念書が牽制になると経験知を披露する。また,“土壌の健全化”にあたっては,採用段階で人物を見抜くべきとしつつ,はじめから悪質なケースはまれだとも述べ,日頃から労使の信頼関係を良好に保ち“シロアリ化させない工夫”も求めている。

●著者:原 俊  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2013年8月2日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:740円(税別)

若者と労働

 若者の就職事情と労働政策の動向を歴史的に俯瞰し,現代の課題を浮き彫りにしていくスケールの大きな論考だ。まず,「入社」に価値を置く日本的な新卒採用スタイルを「メンバーシップ型」と名付け,欧米にみられる「職」基準の「ジョブ型」との違いを明らかにしている。そのうえで,企業が学歴(偏差値)を頼りに新卒を採るメンバーシップ型雇用は,1990年代の正社員削減の動きを契機に行き詰まったと振り返る。そのとき門戸から漏れた若者らが「フリーター」となって潜行し,2000年代に至って「年長フリーター」という格差問題で顕在化したとの分析を示している。今後の政策的処方では,新卒(学歴)採用への偏りを廃し,「職」基準への転換が避けられないと見通すものの,一気にジョブ型労働社会へ移行するとスキルを持たない若者から失業するリスクが大きいとし,暫定的な「ジョブ型正社員」という雇用スタイルに注目する。内容は詳しく正確で,しかも易しい記述に徹していて,時系列の雇用状況を一気におさらいできる仕上がりがうれしい。

●著者:濱口桂一郎  ●発行:中央公論新社/2013年8月10日
●体裁:新書版/291頁  ●定価:880円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki