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書評 2014.03

部下育成にもっと自信がつく本

 本書で扱う「部下育成」とは“叱ったり褒めたり”のハウツーではない。かといって“上司こそしっかりしろ”といった単純な精神論でもない。各章を通して一貫しているのは,上司の役割や部下に対する姿勢の部分で,テクニック以前に“核”となる自覚をもって職場に挑めとのアドバイスだ。具体的なところでは,例えば,できない部下は当然指導の対象だが,できる部下にも,自滅させず,さらに成長してもらうため目配りや働きかけは欠かせないと指摘する。また,答えを教えるのではなく,絶対解のないビジネスの現場で日々適切な選択ができるよう「意味」を正しく伝えていくよう示唆。あるいは,評価を巡っては,数値的客観性よりも育成の意図が優先するとし,その前提条件に信頼関係の構築を訴えている。優れた上司が「聞き上手」なのは確かとしながらも,うなずくだけでは働きかけが足らず,感情を共感するひと言があるべきだと諭すなど,上司の立場にある方々にとっては,エピソードの1つひとつが視野拡大に役立つありがたい内容と思われる。

●著者:松下直子  ●発行:同文舘出版/2014年1月9日
●体裁:四六版/213頁  ●定価:1,500円(税別)

サラリーマンこそ最強の職業である

 男女を含めて会社員一般をあえて「サラリーマン」と表現し,そのポジションがいかに恵まれた環境であるかを語っている。メリットを列挙されてみると,改めてその指摘には納得させられる。社会保障が整い,病欠の間も給料が出るし,基本的に土日が休みで有給休暇も使え,住宅ローンの信用枠などでもフリーではあり得ない安全網に守られている。ただ,本書の趣旨は安定生活の享受などでは全くない。自ら積極的に成長していくという前提で会社というインフラをどう活用していくかが本論だ。研修制度では,タダで講座に参加でき,学習の機会を得られるし,尊敬できる人・苦手な人を含めて職場からは対人関係や専門性など多くのことを吸収できる。個人の立場では近寄れないような社外の人とも会社の看板を利用して面会がかなう。すなわち,ヒト・ノウハウ・情報・資金が蓄積されている会社は“宝の山”であり,企画と行動次第でいくらでも大きな仕事に取り組めると気づきを促す。サラリーマンの復権をも予感させるポジティブ思考全開の1冊。

●著者:金田博之  ●発行:マイナビ/2014年1月31日
●体裁:新書版/208頁  ●定価:850円(税別)

7日で作る 新・人事考課

 7日で人事制度を作るとは一見無謀のようにも思えるが,コンサルティングの現場では,骨組みの大枠は1週間程度で固めてしまうという。そうしたプロのノウハウをもとに本書に挙げられた項目が,@制度の目的(インタビュー),A等級制度,B報酬制度,C評価制度,D賞与制度,E昇格・降格制度,F移行計画,の7つだ。文字通り7日で進めるか,時間をかけるかは読者次第と著者も認めるところ。制度設計の新しさでは,例えば職務と行動の両面をみる「ハイブリッド評価」が面白い。潜在化している能力ではなく,目に見える行動を評価しようとの提案である。また,欧米のような解雇が難しいからこそ「降格制度」に意味があるとし,適任者抜擢を進める仕掛けを盛り込んでいる点も説得力がある。各項目は講義編と実務編で構成され,さらにCDに収録された帳票類もうれしい(Word/Excel/PowerPoint)。給与テーブル・レンジシート,行動評価シート,評価指標一覧,等級定義一覧,目標管理シートなどが含まれ,コストパフォーマンスも十分な仕上がりだ。

●著者:平康慶浩  ●発行:明日香出版社/2014年2月16日
●体裁:四六版/293頁  ●定価:2,200円(税別)

「一体感」が会社を潰す

 仲間意識に守られ一致団結して組織の強みを発揮できたのはバブル崩壊までだったと著者は振り返る。時代(経営環境)が様変わりしているのに旧来の価値観を捨てられなければ停滞感は続くと予見し,個人・組織・マネジメントの3要素に巣食う「子ども病」を指摘している。では,どうすればいいのかというと,「自立・自律による一流への飛躍」が「オトナ」へのカギになるようだ。すなわち,旧来の「一人前」のレベルでは組織への「所属」の域を出ず,「管理監督」でコントロールされる立場に過ぎない。一方,「一流」のレベルは「参加」の意識となり,「専門性の発揮」という成果行動に集中する立場となる。人材が一流ばかりでは組織がまとまらない事態も懸念されるが,オトナのマネジメントでは,摩擦を当たり前に受け入れ,目的意識の共有化を頼りにチーム運営を進める「統合」が機能するとも述べている(旧来は摩擦を避け異端を排除したり,折衷案でまとめたりしてきた)。個人も組織も「オトナ」へ脱皮すべきだとの訴求は新鮮にして深刻だ。

●著者:秋山 進  ●発行:PHP研究所/2014年3月4日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:840円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki