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書評 2014.04

ゼロから教えて新人教育

 JALの国際線パーサーとして活躍してきた著者が,新人教育のノウハウをガイドした1冊。主に初めてリーダー役に就く方々を対象に,「マナー・敬語」「報連相」「ビジネス文書・メールの書き方」の指導から,「褒め方・しかり方」「PDCA」「話の聴き方」といったリーダー自身の知識・態度に至る一通りのスキルをレクチャーしている。イラスト・図解が充実していて“見てすぐ分かる教え方マニュアル”といえる仕上がりがイマドキのリーダーにはありがたいはずだ。また,「自分の仕事しかしない」「何度も同じミスをする」「おしゃれと身だしなみを混同している」「指摘したら泣く」といった極めて具体的な問題ケースを取り上げ,“より適切なセリフ”を例示するなど,身近なところから教え方が理解できる構成もうれしい。初歩的な項目を分かりかりやすく紹介する一方で,ティーチング・コーチング・カウンセリングの使い分けを説くなど,難易度は決して低くはなく,完全マスターできれば相当のリーダーシップが身につく内容と思われる。

●著者:大部美知子  ●発行:かんき出版/2014年2月20日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,300円(税別)

劣化するシニア社員

 本書が問題視する「シニア社員」とは,主に定年後再雇用された60歳以上の従業員たちのことだ。たいていは処遇も配属も変わり,新しい職場での再出発となる。しかし,役職感覚が抜けず周囲を部下のように扱ったり,上司の指示を無視したり,若手を叱りつけたりと“暴走”する。あるいは,雑用は嫌がるくせに新しいスキルは学ばず,“ご意見番”を決め込んで説教や無駄話に興じてばかりといったケースもあるようだ。人手が足りないからシニア人材を受け入れたある職場では「戦力にならないうえにノー残業デーを提案してくるなんて神経を疑う」と相当に困惑している様子だ。そこでカウンセリングを担当する著者は,両サイドの言い分を整理。シニア側の認識不足がトラブルを生んでいる一方で,現場の配慮不足や受け入れ体制の不備がミスマッチを拡大させている側面も指摘している。中高齢者雇用の義務化が進む今後,この手の混乱はさらに多発すると予測される。シニア・配属先・人事担当者の3 者にとって重要な示唆が盛りだくさんの論考だ。

●著者:見波利幸  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年2月21日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:850円(税別)

職場コミュニケーション熟達の極意

 書名に「熟達の極意」とあるように,本書はコミュニケーションに関わる諸知識にとどまらず,実践・応用の具体例に踏み込んだ考察を展開している。どんな関係にせよ「確実に伝える」ためには,言動の工夫に加え,相手が「どのレベルで分かったか」まで見届ける必要があると指摘。「聴く姿勢」に加えて「質問する力」がコミュニケーションを深める重要なスキルになると述べている。例えば,オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの組み合わせによって相手の口から主張や説明を引き出し,相互に共有するところまでを求める。上司が部下を支援する際にも程度の違い(教える・助ける・手を貸す)があるとし,“依存”から“自立”に向かうための効果的な働きかけを探っている。コーチング・カウンセリング・ファシリテーション・アクションラーニングといったメソッドの上に成り立つやや高度な方法論と思われ,上司部下・チームリーダーとメンバー・会議体での進行役等の場で手応えを得るには,読者自身にも相応の経験と研鑽が必須といえそう。

●著者:阿部久美子  ●発行:経団連出版/2014年3月10日
●体裁:四六版/159頁  ●定価:1,200円(税別)

辞めたくても,辞められない!

 退職を申し出ると,あの手この手で辞めないよう凄むブラック企業の一面を暴いた1冊。業務上のミス・社宅家賃・研修投資・飲み会の費用まで並べ立て,相当額を返済し終えるまでは辞めさせないと脅迫する。あるいはストーカー同然に親元まで出向いて連れ戻したり,業界に悪い情報を流して転職を妨害するなどの犯罪的行為や,カルト教団のような洗脳を試み執拗に慰留を働きかける事例もある。「さっさと辞めればいいだけでは?」と常識的には思われるのだが,本人は,従順な性格の度が過ぎて社会性が希薄していたり,辞めたらもう仕事が見つからないと思い込んだり,自己責任論に縛られたりして,堂々と主張できない立場に追いやられてしまっている。こうした動向を一通りレポートしたうえで,著者は「労使対等の原則が崩れつつある」と懸念を示し,労務コンプライアンスの規制強化や労使関係の監視の仕組み作りなど社会的に取り組むべき課題に言及している。それにしても労使関係の変貌(経営の質の劣化)ぶりは衝撃であり驚きを禁じ得ない。

●著者:溝上憲文  ●発行:廣済堂出版/2014年3月12日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki