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書評 2014.07

雇用改革の真実

 労働政策関連で話題の諸テーマにつき,労働法研究の第一人者が多面的に解説した1冊。取り上げられているのは,「解雇規制」「限定正社員」「有期雇用」「派遣労働」「賃上げ」「ホワイトカラー・エグゼンプション」「育児休業」「定年延長」の各項目だ。法改正によって引き起こされるかもしれない懸念を先取りして批判するのではなく,自由に働ける余地が拡大する等のメリットにもしっかりスポットを当てて記述する姿勢に共感する読者は多いと思われる。例えば「限定正社員」は転勤がNGで解雇リスクが高まると危惧するより,地域限定で働ける利点に注目する。あるいは,時間型労働と業務型労働を分け(さらに後者をノルマ型とインセンティブ型に分け)たうえで,エグゼンプションの導入はWLBを両立させる余地が大きいと期待を述べている。学術に閉じこもらず,企業の損得には肩入れせず,すべてを搾取に結びつけて否定す勢力とも距離を置き,“労働者を保護する労働法”の原点に立ち返って読み解いていく現実的論考ゆえ,分かりやすさも抜群だ。

●著者:大内伸哉  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年5月8日
●体裁:新書版/245頁  ●定価:850円(税別)

なぜあの人は定時に帰っても信頼されるのか?

 複数の著名な外資系企業で重役秘書を勤めてきた著者によるオリジナリティあふれる仕事論が興味深い。自らはWLBを確保するため基本的には夜の残業をせず,早朝から出社する「朝型」を実践してきたという。その結果,職場では「夜はいない人」という認識が定着する一方,「朝から連絡がつき,各方面への緊急の調整を頼める人」との信頼を得るに至ったと語る。そうしたタイムマネジメントのテクニックもさることながら,本書で最も注目したいのが“心持ち”の部分だ。「時間がないという言い訳は恥ずかしい(できる人ほど時間の言い訳はしない)」文化圏で,どんなに仕事が積み上がっても何とかするメンタリティを維持し,さらに、自分のToDoは関係者の後工程を考えてプライオリティをつけるといった気配りが徹底している。見返りを計算するのではなく,“私の立場でやれることは何か”と常にアンテナを張った結果が優れた成果をもたらしている様子だ。「信頼されると裁量が拡大し,より自由に働ける」という好循環説に納得させられる。

●著者:能町光香  ●発行:ポプラ社/2014年6月5日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:780円(税別)

「できる人事」と「ダメ人事」の習慣

 「できる人事」と「ダメ人事」の対比を50テーマ・7編(@人事の心得,A採用・面接,B育成・キャリア,C退職対応,D評価・報酬,E組織改革,Fライフスタイル)で構成した意欲作。「できる人事は未来を見て,ダメ人事は過去を見る」などは多くの読者が正論と理解できるだろう。一方で,「できる人事は採用基準が緩く,ダメ人事は厳しい」「できる人事は不公平を気にせず,ダメ人事は公平にしようとする」など,「え?」と思わせる逆説的なキャッチも光る。単に事実関係を調査したり,最大公約数で括って制度化を図ったりするだけでは解決しない組織マネジメントの奥深さに触れ,人事は各社員の抱く不公平感や偏見をもいったんは受け止める立場だと語っている。といって,個々を大切にするあまり“木を見て森を見ず”に陥るリスクも警戒する。流行のメソッドや現場の声に振り回されず,組織全体が多様な人材の組み合わせで活性化していくよう「普遍的な視座を保て」と肝の据わったアドバイスが綴られ,孤独な人事担当者には何とも頼もしい。

●著者:曽和利光  ●発行:明日香出版社/2014年6月16日
●体裁:四六版/235頁  ●定価:1,500円(税別)

無業社会

 学校にも職場にも所属しない,主に15歳以上35歳未満の(いわゆるニートと重なる)若者たちの存在に注目した論考だ。本書に例示された7人の「履歴書」を読む限り,必ずしもそれは特殊ではなかった。人間関係が不器用で就職面接に失敗したり,就職した会社の経営が傾き解雇されたり,起業に失敗するなどして何らかのきっかけで“正規ルート”から外れ,社会の枠組みに戻れなくなってしまったストーリーがトレースされている。「気がつくと他に選択肢がなくなっている状況」をリアルに描くことで,一般に言われがちな「わがまま」「親が甘やかしている」「怠けているだけ」といった自己責任論では解決の難しい課題を突きつけている。また,国の未来を考えたとき,社会全体のコストに跳ね返るという点で,若年無業者の問題に無関心では済まされない理由も述べている(逆に彼らが就業できれば納税者に転換する)。個別には「働く自信」を支援し,社会的には人事システムや福祉政策のあり方を再構築していくべきだとする提言は傾聴に値する。

●著者:工藤 啓・西田亮介  ●発行:朝日新聞出版/2014年6月30日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki