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書評 2014.08

みんなで変える日本の新卒採用・就職

 2016年卒から時期が繰り下げになる経団連の新卒採用指針につき,著者は“相当の危機感”を本書に語っている。活動が全体的に遅れることで,@中小企業の採用がさらに遅れる,A学生が卒業研究に集中できない,B「指針」が守られず現場が混乱する,といった懸念を示しつつ,「時期」だけが問題なのではなく,学生・保護者・大学・企業・採用支援業・就職コンサルタント・行政,それぞれの勘違いも大きいと指摘する。とりわけ混乱を助長させている要因の1つにナビの仕組みを挙げている。学生側が超人気企業を含めて機械的に応募できる表裏の関係で,企業側は指定校以外の応募者を機械的に落とすしか手がなく,大量の不採用通知を受け取る学生が続出しているというのだ。一連の構造を変えるのは容易ではないが,例えば,インターンシップやOB訪問などを通してリアル感を得て「入れそうな(=求められている)会社」にアプローチすれば,不幸は避けられるのではないかと提案している。書名の通り,関係者「みんな」で見直す必要がありそうだ。

●著者:寺澤康介  ●発行:HRプロ/2014年6月3日
●体裁:四六版/157頁  ●定価:1,100円(税別)

会社が正論すぎて,働きたくなくなる

 会社と個人をつなぐ立場の著者(転職コンサルタント)は,法人もプロファイリング分析の対象になるとし,「会社が病んでいる(うつ化している)」近年の傾向を本書に訴えている。象徴的なキーワードが「閉塞感」であり,それはポジティブ思考,効果・効率,イノベーション,コンプライアンスといった「正論」で取り囲まれているゆえに,まともに抵抗すると個人の心が折れてしまう複雑さも指摘する。“コストダウンもリストラも経営判断としては正しいと思うが,私はそこで働く気がしない”という従業員の疲弊感が再生産される危機を読み取り,そんな状態にあっては,自分のこだわり(業績以外の価値基準)を大事にしたり,息抜きの時間を作ったりするなど,会社から距離を置く客観姿勢も有効だとアドバイスを語っている。一方,会社側には,ベテラン社員の経験を認め,非効率の余地を残し,個々の適性を活かしていく“働きがいを最大化する社風”を築いてはどうかと示唆する。正論で統制を図るだけが人事の仕事ではないと再認識を迫られそう。

●著者:細井智彦  ●発行:講談社/2014年6月19日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:840円(税別)

企業のための外国人雇用実務ガイド

 オフィスや現場で外国人の働く姿を日常的に見かける今,新卒・中途を問わず外国人採用が人材調達の普通の選択肢になりそうな勢いである。しかし,「在留資格」はじめ諸手続にはやや高いハードルが存在するようだ。本書は,外国人雇用のエキスパート(行政書士)である著者が,企業の人事担当者にも容易に理解できるよう外国人雇用の要点を整理している。例えば「在留資格」は本人の専門性と職種が決められており,技能・技術・人文知識・国際業務などの資格枠を外れた就労はさせられない。あるいは,社宅に住んでいるからといって本人が役所への届出を怠ると資格更新ができなかったりする。他にも,社会保険への加入や税金の扱い,帯同家族の就労の有無・アルバイトの実態まで,人事に求められる管理の範囲はけっこう広い。そもそも外国人を受け入れる企業自体が,安定性や継続性の観点から財務状況を含めて入管当局に審査される現実があった。さしあたって外国人雇用の予定がない企業の方にも諸課題・諸事情が把握でき,勉強になる1冊。

●著者:佐藤正巳  ●発行:法研/2014年6月20日
●体裁:四六版/200頁  ●定価:2,000円(税別)

上司の言い分 部下の言い分

 上司と部下の間の齟齬は,今やあらゆる職場で生じている。「部下の話は要領を得ない」上司vs.「上司は話を聞いてくれない」部下,「事前に相談しろと言っただろう」上司vs.「『それぐらい自分で考えて行動しろ』と言ってたくせに」部下,「あいつはコミュニケーション能力が低い」上司vs.「ムダな雑談で邪魔をしないでほしい」部下,などは典型だ。自らも会社員生活を経て,研修講師歴16年・5,000人の管理者および1万5,000人の部下の皆さんと接点を持ってきたという著者は,本書に上司・部下間の行き違いを17のケースで紹介している。上司・部下どちらの言い分にも一理あり解決は難しいとしながらも,第三者の立場から俯瞰することで問題の本質を整理し,双方に提言を示していく構成だ。一例では,上司には「部下の話を1分間だけでも集中して聞き,報告をねぎらう姿勢」を,部下には「用件を先に伝え,整理して話すスキル」をアドバイスしている。上司・部下の距離が縮まることで職場の全体効率が向上するメリットにも注目して読みたい。

●著者:濱田秀彦  ●発行:KADOKAWA/2014年7月25日
●体裁:新書版/208頁  ●定価:780円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki