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書評 2015.02

「就活」の社会史

 日本の就活問題をほぼ100年史で振り返った圧巻の論考。といっても「社会史」とある通り,映画・週刊誌記事・CM・マンガなどに着目して時代を切り取る柔らかめのスタンスゆえに面白く読める。小津安二郎監督『大学は出たけれど』(1929年)の時代から“高学歴でも就職難”の社会構造は変わらない連続性を指摘する一方,“黒スーツ”というリクルートファッションは就職氷河期以前には見られなかったと文化的な断絶も解説している。「学業か就職準備か」「指定校制度の功罪」といった課題では戦前からも同じような議論が繰り返され,またオイルショック時に「内定切り」が続出したり,1970年代後半には「大卒使い捨て」の実態が暴かれたり,1980年代初めに「受験料をとる会社」が現れたり,案外,今と同じような現象が起きていたことに驚かされる。「太陽族」「若大将」「植木等」「ヒッピー・フーテン」「俺たちの旅」「ふぞろいの林檎たち」といった時々の話題とパラレルに就職活動を読み解いていく構成には好奇心が大いに刺激される。

●著者:難波功士  ●発行:祥伝社/2014年12月10日
●体裁:新書版/399頁  ●定価:900円(税別)

がんばると迷惑な人

  「もっとがんばれ」と周囲に努力を強いたり,やたら「一丸となる」ことを求めたりする熱血上司,熱血教師が迷惑な存在となるケースはよくある。本書はそうした日常の迷惑ぶりを手がかりに,社会に張り巡らされた「がんばり文化」の弊害を多面的に解き明かしている(迷惑な個人を分析・批判する内容ではない)。問題のカギは1990年代の変化にあったと著者は振り返る。すなわち,努力の「量」が成果に比例した工業社会から,創造性・独創性といった「質」が問われるポスト工業社会への移行に日本の企業は失敗したのではないかと疑っている。「成果」より「がんばる姿」に弱い日本人のメンタリティーを認めつつ,それがオフィシャルな人事制度にも染みついてしまっている結果,「量」にとらわれた非効率で無駄な働き方・組織運営が改善されていないと警戒する。「もっとがんばれ」あるいは「無理してがんばるな」ではなく,そもそも“がんばることの有効性”を問い,「がんばるより考えろ」とジレンマからの脱出口を示唆しているようだ。

●著者:太田 肇  ●発行:新潮社/2014年12月20日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:720円(税別)

結果を出すまで続けられる人のしくみ

 スポーツ選手やビジネスパーソンのメンタルトレーニングに携わってきた著者は自らを「目標設定ナビゲーター」と名乗っている。ダイエット同様,売上目標でもスキル習得でも「根性でがんばる」だけでは苦しくなって長続きせず,いかに「わくわく感」を伴って行動を持続させるかがカギになると述べている。大脳生理学の知見を応用したというその方法とは“前向きに自分の脳をだます”,いわば自己暗示だ。厳しいノルマを抱えても,「すでに達成し,盛り上がっている姿」をリアルに思い描き,「楽しいこと」に置き換えて意識できれば,身体反応が変わり,本当に現実になる作用を説明している(ただし,あらゆる展開を考え,トラブルも想定内にしておく周到さも同時に求める)。達成感のイメージの仕方から,成果を目に見えるように行動するところまで5つのテクニックを整理したうえで,8人の実践事例を紹介。「日頃からポジティブなフレーズを使う」「妄想でもいいから応援してくれる存在を持つ」など,ちょっとしたアドバイスもありがたい。

●著者:西田一見  ●発行:明日香出版社/2014年12月22日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,400円(税別)

3つのフレームワーク

 戦略が現場で正しく実行されない構造的問題をクリアにした1冊。営業部門を扱った内容ながら,「言った通りに動かない」「言ったことしかしない」という組織課題に対峙し,人事部門でも視野に入れておきたい解決ノウハウが満載だ。すなわち,本部レベルでとりまとめた戦略と,ルーチン業務で手一杯な現場との間には“三遊間の罠”が生じているとし,仮に戦略が失敗に終わった際も,やってダメだったのか,やらなかったのか,やり方がまずかったのか,が検証できないジレンマを指摘する。理想的には「理解」「納得」「実行」「定着」というプロセスが望まれるとしつつ,「理解」の段階で同じ説明を繰り返しても効果はないと警告。上司と部下の間では,考えさせ,思考を助け,自己決定に導き,やることを合意させる(コミットメントを引き出す)「戦略対話」の場を持つよう提案している。「BSC」や「SWOT」といった思考概念を取り入れ,マトリクスを駆使した分析を展開するなど,戦略系の方々には興味深いコンテンツに仕上がっているはずだ。

●著者:河村 亨  ●発行:日経BPコンサルティング/2015年1月13日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki