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書評 2015.03

ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?

 日本労働弁護団等で活躍する弁護士が「違法残業の是正」をテーマに労働法の解説を綴った1冊。といっても,求人広告から「基礎賃金」「労働日数」を読み取り,そこから「時間当たり単価」「残業代」「割り増し額」をはじき出して検証し,就労実態をリアルに描いてみせるシミュレーションの展開が面白い。募集要項を解析した結果「固定残業代がコミコミ」あるいは「情報が少なく分析できない」と分かれば就労先としては不適だと警告する。また,「固定残業代制」「変形労働時間制」「事業場外みなし労働時間制」「裁量労働制」については,本来求められる運用(時間・単価の明確化,それを超えた分の精算)と給与実態との差異から違法性を暴き,さらに,諸条件(休日・深夜)によって変動する割増賃金率の複雑さ説明しながら,自ら残業代自動計算ソフト『給与第一』の開発に至った経緯も明らかにしている。未払い残業代請求を弁護士に依頼するときの費用感覚など,人事の立場でもちょっと知りたいウラ話が盛り込まれ,けっこう刺激をもらえる。

●著者:渡辺輝人  ●発行:旬報社/2015年1月13日
●体裁:四六版/184頁  ●定価:1,500円(税別)

確実に利益を上げる会社は人を資産とみなす

 データサイエンスと経営の融合を唱える著者は,“人を資産として決算書に反映させる”という新発想を本書に提案している。過去のコスト(経費)で見るのではなく,未来を担う潜在能力に注目し,「資産」の形で顕在化させる方法を模索。その先の応用例では,社員1人当たり給料の3倍程度を稼いでもらいたいとの前提で,生産性を高めるための教育投資を数値(時間・金額)で算出してみせる。基本的には成長の好循環サイクルを期待しつつ,一方でスキルや能力が現状維持にとどまる陳腐化リスクも見込み,「減価償却資産」とみなす冷徹さもぬかりがない(耐用年数が5年なら,年20%の減価償却となり,裏返せば年20%の能力開発が必要だと数値化している)。もっとも,陳腐化しやすい専門知識やスキルと異なり,インフラ資産ともいえる「人間力」の要素は目減りしにくいとし,「社会人基礎力」の重要性も章を改めて解説している。「やりがい」や「適性」も数値分析の対象に含めるアプローチは今後さらに注目されていくのかもしれない。

●著者:松久久也  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2015年1月20日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,400円(税別)

タレントマネジメント概論

 本書の説く「タレントマネジメント」とは,情報をため込むデータベースではなく,個々の潜在能力を開発・活用していく“動きそのもの”を指しているようだ。今の時代は既存の仕事枠に人をはめ込んでいたのでは間に合わず,人が仕事を創造してこそ成長が可能だという意味で「人が先,仕事が後」との考え方を示し,タレントマネジメントがそのインフラになると位置づけている。各自のタレントは,人事異動や研修の機会を通して育成・把握できることから,全体を司る人事部にはダイナミックに動きを作っていく役割を期待する。一方,現場で個々の人材と接点を持つ管理者には,部下の支援とともに,全体最適のためにタレントを送り出す貢献を問い,タレントマネジャーの自覚を促す。さらに,従業員個々にも「活用されるのを待つ」のではなく,自らのタレントを磨き,活躍の機会を常に考えていく積極姿勢を求めている。具体事例も分かりやすく,“あの会社の例の取り組みが,要するにタレントマネジメントだったのか!”と随所で納得させられる。

●著者:大野順也  ●発行:ダイヤモンド社/2015年1月22日
●体裁:四六版/271頁  ●定価:1,600円(税別)

「稼げる男」と「稼げない男」の習慣

 国内外のコンサルティング機関で20年以上,約300社の人事案件に関わり,累計5万人のリストラ,5,000人の幹部候補選抜の現場に携わってきた著者が,人材を見分ける目利きのポイントを47項目にわたって整理している。求められているのは「今後も稼ぎ続ける人材」であって,必ずしも「今,稼いでいる人」ではないという企業側のニーズを踏まえ,「稼げる男」と「稼げない男」を対比させて記述する構成が抜群に面白い。「解決を目指すか,無駄に悩むか」「すぐやるか,後回しにするか」「ストレスを受け流すか,耐えるか」「成功から学べるか,失敗からしか学べないか」など,“それ,あるある!”と共感を誘われる項目が多い一方,“あれ? もしかして自分は稼げない側か”と密かに焦りを覚える指摘も見つかり,そこがまた楽しい。突き詰めると「よりシンプルに,的確に,物事を考える力量の差」であり,一般読者には,@自分に合った稼ぐスキルを身につける,A稼ぎ続ける流儀(思考・行動・生活習慣)を持つ,という2点をアドバイスしている。

●著者:松本利明  ●発行:明日香出版社/2015年2月23日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki