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書評 2015.04

あなたの隣のモンスター社員

 本書の扱う「モンスター社員」とは,遅刻やミスを繰り返す「問題社員」とは一線を画し,コミュニケーションがとれず,嘘をつき,攻撃的で自己中心的な“危ない人たち”であった。セクハラを誘う女子社員,トラブルばかり起こした末に親が出てきて退職示談金を要求してくる若者,子育てを武器に公私混同を拡大させるママ社員,あることないこと周囲に言いふらして職場の人間関係を引っかき回す高学歴女子など,「本当にあった事件簿」の章では,社労士として著者が関わってきた事例がミステリー小説並みのリアリティを伴って紹介されている。これに続く会社側が取るべき就労管理・予防対策もさることながら,その前に「モンスターにも三分の理がある」と,彼らの心理状態に寄り添う姿勢も見逃せない。はじめからモンスターであった社員は少なく,何かのきっかけや蓄積があって,嫉妬,不満,歪んだ自己愛などが行動に出てしまうのではないかと一定の理解を示したうえで,究極の対策は「モンスターを生まない会社にすることだ」とまとめている。

●著者:石川弘子  ●発行:文藝春秋/2015年2月20日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:750円(税別)

「タレント」の時代

 変化と競争の激しい時代にあっては,トップに誰が就くかで企業の存亡が決まると本書は警告し,タレント(才能ある人材)マネジメントを掘り下げている。優秀な人材を集めても利益に結びつけられず,グローバル競争に敗れ去る日本企業の“負けパターン”を分析した著者は「売れないモノを高品質に作り上げたのでは,はじめから終わっている」と断じる。それは,成功している自動車産業と凋落する電機産業,あるいは,恵まれた資源を有し教科書通りに手を打ったソニーの迷走と,何も持っていなかったアップルの躍進との違いだと読み解いている。人の面では,ワーカーとタレントの異質性を明らかにする一方,B級人材はA級人材を評価できない(ゆえに採用しない,登用しない,排除する)やっかいな現実を認め,組織側の課題も指摘している。成功モデルではトヨタの「主査」制度に注目し,人材スペックを越えた「ものつくりの魂」までを洞察する。人事分野にとどまらず,生産工学,産業史をも概観する広範な知見が示され,読み応え十分の論考だ。

●著者:酒井崇男  ●発行:講談社/2015年2月20日
●体裁:新書版/287頁  ●定価:880円(税別)

2016年 残業代がゼロになる

 企業人事と労働政策の動向をジャーナリストとして20年以上にわたって追い続ける著者が,エグゼンプション制度の問題点に熱く斬り込む。法案が成立すれば労基法制定以来のインパクトになると注視し,働き方が変質するカラクリを解き明かしている。とりわけ,法案の狙いが勤労者のためではなく,産業界と海外投資家の利益に向けられている点に違和感を見出し,「場所・時間を選ばず自由裁量で働ける」と夢のようなことをいう推進派に対し,現実には「定時出社は常識・仕事が終わるまで働け」となって長時間労働が助長される危惧を示す。「できない社員ほど残業代が積み上がる逆転現象の解消」「部下なし管理職の残業代カット」「バブル入社世代(40〜50代)の賃金抑制」という3つの経営側のホンネを見抜きつつ,それらをエグゼンプションで解決するのは筋が違うのではないかと疑う。待ったなしの局面を迎えたサラリーマン読者には,「廃案への行動を起こすか」それとも「会社と対等にわたりあう力量を身につけるか」と覚悟を迫っている。

●著者:溝上憲文  ●発行:光文社/2015年3月20日
●体裁:四六版/287頁  ●定価:1,400円(税別)

「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標

 過去40年,約7,000社の経営を実地調査してきた著者は,そのうち約1割が赤字知らずで,一定利益を継続している「いい会社」だと注目する。しかも,それらの会社は競争への執着などではなく「人の幸せを追求する経営活動」という点で共通した特徴があると述べ,詳しくはすでに書籍『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで明らかにしてきたと明かす。本書はその感動物語にとどまらず,読者の企業でも実践できるよう経営要素を分解して示している。「社員」「社外社員(仕入れ先・協力会社)」「顧客」「高齢者・女性・障がい者」「経営者」「採用・育成・評価」「福利厚生」「社会貢献」「経営計画・経営理念」「経営全般」の10の領域につき各10項目の指標を設け,計100点満点でチェックできる構成だ。「過去5年以上,社員数が維持・増加している」にはじまり,「社員1人当たり人材育成費は年間10万円以上」「過去3年,全社員の有給休暇取得率70%以上」など,さすがにハードルは高く,今後目指すべき取り組み課題の宝庫となりそうな資料だ。

●著者:坂本光司&坂本光司研究室  ●発行:朝日新聞出版/2015年3月30日
●体裁:新書版/256頁  ●定価:780円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki