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書評 2015.06

モチベーションマネジメント

 20年以上にわたるコンサルティングや研修の実績をベースに,モチベーションの仕組みと向上策を解き明かした1冊。モチベーションのポイントは,意欲と成果の間に機能する「正のスパイラル」にあると見抜き,個人も組織も,そのサイクルにカットインできれば,状況は好転すると処方を綴っている。とりわけカギの1つとしてクローズアップされているのが「内発的動機」だ。本人の意見を尊重し,物事を自分で決められるように導くことで有能感が刺激され“やらされ感”からの脱出も実現すると指摘している。具体的手段では,目の前の上司が「褒める・期待する・キャリアや目標を支援する」のは当然ながら,状況を共有する仕組みを築いたり,一体感を醸成するイベントを開催したりするなど組織的な取り組みもより有効だとされる。また,順風で加速する人,逆境で奮起する人などタイプが異なる人材を配置することで組織はより強くなれるとし,人事異動にも工夫の余地を求めている。モチベーションをテコに組織全体を好転させていく方法論は要注目だ。

●著者:菊入みゆき  ●発行:経団連出版/2015年4月1日
●体裁:四六版/145頁  ●定価:1,300円(税別)

「つぶれない働き方」の教科書

 産業カウンセラーとして活躍する著者がストレスとうつの関係を手がかりに,働き方のアドバイスを綴った1冊--と紹介するとありきたりだが,実は,著者自身が大手企業を“勢いで辞めてしまい”その後まもなく“つぶれてしまった”等身大の苦悩を語っていて,その点で説得力がにじみ出る。自信たっぷりの人でも過剰なストレスを溜め込みいつしかつぶれる。人事異動では,昇進でも降格でも据え置きでもつぶれる人は出る。転職しても独立してもつぶれる。デキル人,人気者を演じ続けてつぶれる人もいる。どのような職場でも起こりうるケースをいくつか紹介して回避策を探るなかでは,「タテ・ヨコのモードの切り替え」の指摘が興味深い。すなわち,タテとは左脳的領域の主に会社のルールや競争の感情であり,ヨコとは右脳的領域でリラックスや寄り添いの感情の世界を指す。大事なのはタテ・ヨコのバランスだとされ(ヨコに偏りすぎても仕事に戻れず「新型うつ」の苦しみが生じる),ストレスと上手につき合うためのスキルを助言してくれている。

●著者:吉岡俊介  ●発行:彩図社/2015年4月10日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,200円(税別)

日系・外資系一流企業の元人事マンです。じつは入社時点であなたのキャリアパスはほぼ会社によって決められていますが,それでも幸せなビジネスライフの送り方を提案しましょう。

 企業の人事はそれ自体が得体の知れないシステムとして機能し,“制度を超えたモンスターと化している”と著者は見る。公平性を謳う評価制度も,「真実は社内勝ち組の主観をなるべく客観的に明示しようとする試みにすぎない」と断じ,「会社が求める真の能力は明文化されない」とややシニカルなアフォリズムを綴っている。ある階層までは卒業方式で昇進できたとしても,その先の入学基準では予測不能な「神の声・悪魔の声」に左右される側面も暴き,会社の建前に頼りすぎて無防備に振り回される個人側のリスクを突く。すなわち,会社は組織永続性の都合から人事のルール(資格等級や滞留年数など)を用意しているにすぎず,それに従って何十年も階段を上ったり待機したりしているだけでは,大事な人生の機会損失を招いてしまうというのが著者が訴える最大の警告だ。もっとも,制度の仕組みは人事コンサル目線で冷静に解説され,企業人事を悪と見なしているわけでもない。結局は書名の通りのアドバイスということに落ち着くのだろう。

●著者:新井健一  ●発行:すばる舎リンケージ/2015年4月27日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

残念なエリート

 従来の社会・文化・産業の枠組みのもとで合理的な優秀性を発揮してきたエリートは,一方で,“非合理・非常識によるブレイクスルー”という課題に対して全く非力だと著者は述べる。内外の情報を収集し,精緻に分析し,そこから導かれる未来像は悲観的にならざるをえず,エリートは「だからやれない」と残念な結論を下す。これに対し,現実的・建設的な現場の提案に耳を傾け,目の前でやれることを見つけて試行錯誤を続けていくと,案外ブレイクスルーが見つかり道が開けたりすることもある。教科書通りで正攻法の「アカデミック・エリート」が行き詰まり,強い動機を持ち,他人を巻き込む「ストリート・エリート」が勝ち残っていくリアルストーリーを描くあたりは読み応えがある。ただ,本書の視野はさらに大きく,コンサルティングの現場や知人関係のネタから,格差論,マーケティング論,ベンチャー論,異文化論,ゴルフ論など話の幅は広めだ。それでもエピソードが一巡すると人材論に戻っていたりするので,余裕をもった読み方がお勧め。

●著者:山崎将志  ●発行:日本経済新聞出版社/2015年5月8日
●体裁:新書版/195頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki