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書評 2015.07

研修講師養成講座

 社内で研修講師の立場を担う方,あるいはプロ講師を目指す方にはノウハウ満載の必携テキストだ。事前準備から教室の設営,自己紹介,声の出し方,間の取り方,白板の使い方といった基礎的なことはもちろん,眠気の防止策,非協力的な受講者への対応,講師自身の自己研鑽の方向性まで,広く,深く,濃く,アドバイスが整理されている。知識を伝えただけでは行動に至らず最終的な成果にもつながらないというありがちな課題を捉え,「やってるつもり・できているつもり」は,外部からの指摘では改善せず,受講者自らの「体験」で気づかせるしかないと説く。そこで求められるのが例えば高度な研修ファシリテーションのスキルであった。研修は講演とは違い主役は受講者だと確認したうえで,講師には「役者」の覚悟を求める。また,その場限りの人気ウケでは意味がなく,講師にとっての顧客は発注者(人事・教育担当者)だとも語っている。研修の舞台裏が理解できるという点で,発注者側からも読み応えのある1冊といえそうだ。

●著者:真田茂人  ●発行:中央経済社/2015年4月15日
●体裁:四六版/205頁  ●定価:2,400円(税別)

入門 組織開発

 「組織開発」という単語に接するたびにボヤけた解釈でやり過ごしてきた読者がいたとすれば,本書をもってようやく実相が氷解するはずだ。「組織開発」は70年の歴史をもちながら,それ自体は特定の手法ではなく,人や関係性に着目した包括的な働きかけを意味するとの説明がある。制度改革のようなハードではなく,感情やコミュニケーションを扱うソフト領域の取り組みだともたとえられている。活動の過程では,フィードバック,目標管理,キャリア支援,チームビルディング,コーチング,ファシリテーションといった手段が介在するものの,「どのような職場・組織を作りたいか」が主軸であり,「何をするか」はさほど重要ではないと著者は強調する。また,「誰が担うか」では人事部門の配下に組織開発機能を設置するのが合理的だと認めつつ,“管理”のスタンスでは開発支援はできないと注意点を言い添えてもいる。人材が多様化するゆえに断絶を生みやすく,閉塞感が増幅されがちな時代だからこそ再注目されるテーマだと納得させられる。

●著者:中村和彦  ●発行:光文社/2015年5月20日
●体裁:新書版/205頁  ●定価:740円(税別)

若手社員が育たない。

 世代研究を進める著者はレッテル貼りの無意味さをもちろん了解している。そのうえで,本書では“ごくふつうの若者”を対象に多方面から特徴を分析し,旧世代が支配する組織環境との齟齬を明らかにしている。そこから導かれる課題は「若者の成長のしにくさ」であり,精緻な考察を通して一段と深刻な様相が浮き彫りにされている。例えば,旧世代組織では,仕事漬けの日々のなかで非合理な試行錯誤を積み上げ,帰納法的に到達する熟練をもって「一人前」と認めるキャリア観が一般的だ。対して,今の若者は,あるべき姿に近づくための明確なプロセスを求め,最短効率の努力をもって演繹的に技能習得を果たそうと考える。あるいは,会社では消極姿勢でも社外勉強会で刺激を受けて成長していく若者もいる。新旧のギャップの根は深く,もはや上司や人事が小手先で解決できるレベルではないと見て,「個社完結型『採用・育成』システム」をリセットし,「社会協働型『育成・活用』システム」を構築すべきではないかと抜本的な改革を提案している。

●著者:豊田義博  ●発行:筑摩書房/2015年6月10日
●体裁:新書版/237頁  ●定価:800円(税別)

高学歴社員が組織を滅ぼす

 ヒエラルキーの上下関係には忠実で,外に対してはリスク回避,内に対しては身内意識でかばい合う,いわゆる本部・中枢部門に所属する幹部層を「高学歴社員」と総称して批判的に綴っている。外部変化が激しいときに安定志向に甘んじ,結果的に矛盾のしわ寄せを従業員に押しつける「脆弱なマネジメント」を捉え,直近の事例では「すき家」「朝日新聞」「大塚家具」などに着目し,旧軍のインパール作戦に重ねて危機を論じる。また,人事部門が関わる施策では成果主義やローテーション制度の死角にも斬り込む。ビジネスモデルが陳腐化しているのにマネジメントが方針の見直しを怠っていると,最悪の場合「現場の反乱」という形で矛盾が露呈し,組織は一気に瓦解するとも警告している。ただ,幹部層も従業員も広範な社会組織構造に組み込まれているので逃げ道などなく,「絶体絶命のときに出る力が本当の力だ」と本田宗一郎氏(高等小学校卒)の言葉に救いと突破口を見出す。大学弁論部出身の評論家を自負する著者ゆえか歯切れの良さは抜群の仕上がり。

●著者:上念 司  ●発行:PHP研究所/2015年6月17日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki