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書評 2016.05

自分で決める,自分で選ぶ

 副題に「これからのキャリアデザイン」とある通り,主に企業で働く人たちに向けて,チャンスを活かし自ら成長していけるよう広い視野からアドバイスを綴っている。とりわけ働く女性たちには「家庭の事情に配慮してくれて休みやすい」という職場環境に甘えるだけでは成長の機会が奪われると警告する一方,企業に向けては「総合職を選択しなかった女性たちこそ大きな隠れ資産だ」と述べ,動機づけと能力開発のアクションを期待する。本書の注目点の1つは「エンプロイアビリティ」の考え方だろう。“雇用されうる能力”といっても,職場に居続けるための忍耐や資格取得といった狭義の話ではなく,20年後,30年後も業界や世の中で必要とされ貢献できる能力を持てるかどうかを問いかけている。40歳代で残りの人生を日数換算し,したいこと・やるべきこと・できることの3方向から仕事・家庭・地域活動を含めたキャリアを考えさせ,イノベーションマインドの鍛え方をも取り込んで,社会人全般に気づきを促すガイドにまとめている。

●著者:岡田康子  ●発行:東峰書房/2016年1月13日
●体裁:四六版/178頁  ●定価:1,400円(税別)

メンタルタフネスな会社のつくり方

 先にスタートしたストレスチェックの義務化は,ややもすると企業の負担が増えるだけのやっかいな制度だと考えられがちだ。しかし,「義務化への対応」という受け身の認識に留まる限り問題の解決にはほど遠く,今こそメンタル不調を引き起こす職場の根本的要因に積極的に向き合うときではないかと本書は提案する。具体的には,ストレスチェック義務化を巡る行政の動向や制度運用のノウハウに加え,“受けっぱなし”から先のサポート体制のあり方を解説し,集団分析の結果を基にしたメンタルタフネスな組織をつくる方法論に踏み込んでいる。さらに,高ストレスの原因では仕事の「量」や「質」以外に「任されている裁量」や「人間関係」も影響度合いが大きいとして,マネジメントの改善余地を指摘。メンタルヘルスに力を入れている会社は「安全衛生にしっかり取り組んでいる」とポジティブに評価される時代を迎え,そのPR効果は,コストやリスクを上回るとも語る。ストレスチェックを契機に職場改善を図った4社の事例紹介も参考になりそうだ。

●編者:アドバンテッジリスクマネジメント  ●発行:ダイヤモンド・ビジネス企画/2016年3月3日
●体裁:四六版/143頁  ●定価:1,200円(税別)

いらない課長,すごい課長

 ダイバーシティが当たり前に進んでいくこれからの職場を考えたとき,“昭和のOS”がインストールされた熱血課長では行き詰まると著者は読み解いている。同じ釜の飯を食ってきた仲間がいて,飲みに誘えば部下一同が(残業を抱えていても)ついてきたパワーの行使は空振りに終わるとの見立てだ。さらに,職場のメンバーたちに共通する利害がなくなった状況で,課長が発揮しうる力は何かを多角的に掘り下げながら,それは「熱血」ではなく「緑の血」ではないかと言い当てている。すなわち,ポジションによる脅しでも個人的な魅力でもなく,習熟や伝承が可能な技術に行き着くとして「プロ課長に求められる7つのスキル」を整理している(脱ガラパゴスという意味でポータビリティがあり,市場価値の担保にもなりうる)。出世ポストの絶対数が限られ,役職定年が誰にも迫るとき,「役職名+島耕作」のスタイルでは行き場が失われると述べ,今後、生き残っていけるのは「釣りバカ日誌のハマちゃん」ではないかと象徴的なモデルを挙げて論じている点も面白い。

●著者:新井健一  ●発行:日本経済新聞出版社/2016年3月8日
●体裁:新書版/245頁  ●定価:850円(税別)

ダメな部下でも伸ばす上司,できる部下まで潰す上司

 部下を育て,組織の成果を高めていくための“上司の要点”を,「問題のある部下への対処法」から「ご機嫌な職場の作り方」まで様々なトピックを交えて構成した1冊。本書に一貫して語られている注目のワードは「肯定的視点」だ。いまどきの若者に対して「言われたことしかできない」とグチるのではなく,「言われたことはちゃんとやる」と良い面に着目し,上司の側が伝える工夫をしてみる。「とにかくやれ」と押し切るのではなく,仕事の背景を説明し,手順を教え,できたところは褒めて助言を添える。「自分で考えろ」と突き放す前に部下が自力で考えられるよう基礎を教えているかとも問う。また,できる上司が先頭に立っていたのでは部下はついてこられないケースも多いとして,“部下を先頭に立たせ,上司が後押しするスタンス”を推奨する。肯定的に部下の存在を認めると,人間関係が良好になり,職場の雰囲気も前向きに変わる。そうすれば成果も出るし,やがて精鋭も輩出されるだろうと,理想的なマネジメントサイクルを提案している。

●著者:本田有明  ●発行:PHP研究所/2016年3月18日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki