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書評 2016.06

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

 著者は,これからのビジネスは“従来通り”ではなく“例外”が日常化していくという前提に立ち,プロジェクトマネジメントのスキルに注目する。個人のキャリアで考えても「組織として成果を出すスキル」を身につけていれば,会社がなくなっても慌てる必要はないと述べている。では,どのようなスキルなのかというと,実は個別のテクニックではなく,状況認識,人間関係,リーダーの覚悟等が中心になるようだ。なかでも「目的の把握」は特に重視されている。複数のプロジェクトオーナー(上位役職者たち)の考えを忖度し,目的が曖昧なままリーダーが抱え込んでしまうとそのプロジェクトは炎上すると警告。相手が上級職であってもあえてデジタルに「想定するゴールは何か」を具体的に問い詰めていくべきだとし,プロジェクトに対する「賛・否」と「影響力の大・小」で社内関係者をマトリクス分布して可視化する「人間関係裏マップ」なるツールも紹介している。ユーモラスかつしたたかに本質に迫るリーダーの副読本としてお勧めしたい1冊。

●著者:山口 周  ●発行:大和書房/2016年4月5日
●体裁:四六版/232頁  ●定価:1,400円(税別)

研修・ファシリテーションの技術

 本書は,基本的には研修講師のための入門書と位置づけられる。汎用的なテクニック(教室レイアウト,板書,声の出し方,言葉の使い方,アイコンタクト,ジェスチャーなど)を知りたければ,後半に整理されているので,そちらから先に参照するというのも1つの読み方かもしれない。あるいは,緊張を和らげたいとか,受講者が寝ているとか,ありがちな現場課題への処方については,各編にまとめられた「新人講師・ファシリテーターの『困った』を解決する7つの知恵」が役に立つだろう。ただ,本書のすごさは,研修以前のところにある。研修というアクティビティを「誰が」「誰に」「何を」「どこで」「どのように」の5つのステップに分けて,そもそものあるべきスタンスを深く掘り下げている。また,受講者に対峙する立場をはっきりさせておかないと関わり方がぼやけるとして,講師自らを鍛えるプロセスにも相当のページを割いている。著者ご自身の体験と古今東西の知見をフル動員し,関係性を見極めていこうとする真摯なアプローチは圧巻だ。

●著者:広江朋紀  ●発行:同文舘出版/2016年4月12日
●体裁:四六版/255頁  ●定価:1,600円(税別)

儲ける社長の人事評価ルールのつくり方

 著者は(株)武蔵野の代表。同社および経営サポート先の事例をふんだんに盛り込んで,人事評価制度の設計および運用のキモを解説している。学説理論やキレイゴトはいっさい抜き,本音・実名で社内人事の実態を明らかにした驚愕の内容だ。例えば,賞与が20万円から翌期には410万円に跳ね上がった役員,224万円から翌期8,400円に急降下した社員などもフルネームで登場する。そんな制度は無茶だと批判されそうだが,実は性別・学歴のハンデなし,基本給は年功,賞与は半期でリセットされ敗者復活が可能なので社員の側からすると「低い評価でもいちいち腐っていられない」のだという。明示された評価ルールがあるという事実が公平性の担保になっていて,社員は皆「納得」しているのだ。ただ,制度に納得はしているけれど額には満足せず,その満足を得るには業績を上げるしかないという方程式が成り立ち,乱暴なようでいて意外に巧みな人事の仕組みが機能している。号俸表や評価シートも掲載されていて,特に中小企業には参考になりそう。

●著者:小山 昇  ●発行:KADOKAWA/2016年5月20日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

小さな会社でもできた! 残業ゼロの労務管理

 200社以上の企業で残業削減を成功させてきた著者は,本書にその手法および考え方を公開している。残業削減は生産性向上とセットであり,生産性が向上すれば業績が上がり,賃金アップの原資になるという好循環を標榜している。取り組みの柱は,「時間の制約による『極限状態』の有効活用」「業務の標準化」「就業規則・賃金制度・人事制度の見直し」の3点。具体的には,残業は特殊・異常な状態だと改めて社内に定義づけ,どうしても残業する場合は申請・承認・報告を求め,その残業申請書には「残業ゼロへの具体的対策」も記入させる。また,就業規則の「見なし残業手当」を「残業ゼロ手当」と書き換え,意識改革を促す方法も提案している。一連の改革は社内ワーキンググループによるオープンな進め方にもコツがあるとし,ノウハウを整理している点も注目だ。なお,解説に先立って第1章に綴られた企業事例は,強制消灯,電源遮断,LANシステム遮断,ICカードによる入退出制限など,経営者側の試行錯誤がすさまじく,物語として面白く読める。

●著者:望月建吾/木村純一  ●発行:レクシスネクシス・ジャパン/2016年6月1日
●体裁:四六版/202頁  ●定価:2,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki