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書評 2016.10

パラレルキャリア

 古今東西の偉人・著名人の多くが実は複数の仕事に就いていた史実を紹介しつつ,これから一般化するであろう新しい働き方=「パラレルキャリア」のあり方を多方面から探っている。食うための仕事(ライスワーク),生涯をかける仕事(ライフワーク),趣味を極める仕事(ライクワーク)の3つのバランスが重要だと指摘し,これらを,ご飯(5):おかず(4):デザート(1)の割合に模して語る柔軟性には何となく腹落ちしてしまう不思議な説得力がある。「べき論」で自らの行動を拘束するのではなく,好きなことをやり続けていくと仕事になっていく可能性にも注目し,趣味の段階で下積みを体験しておく「趣味レーション」の効能を説く。また,バリバリと1つのキャリアを突き進む姿とは対照的に,のんびり複数の仕事を楽しむ「ゆるキャリ」も提案。仕事に遊びの要素を取り入れ,確信犯的にジャンルを崩したり, 2つ以上の要素(人・仕事・キャリア)を組み合わせて「和音」の共鳴を楽しんだりしてはどうかと,味わい深い100のトピックを綴っている。

●著者:ナカムラクニオ  ●発行:晶文社/2016年6月10日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,400円(税別)

人のほめ方サクッとノート

 ビジュアルなレイアウトで,単語帳のごとく「ほめフレーズ」が紹介され,見て理解できるノートに編集されている。本書によれば「ほめる」とは「よいしょ」と異なり,事実を捉え,ポジティブな言葉に変換し,感謝の言葉を添えて伝える行為だとされる。相手のいいところを見つけたらすかさずほめるというタイミング,そして,相手を見て笑顔で対応するといった仕草も重要な要素だと指摘されている。クセの強いタイプが相手でも,まずは否定せずに受け入れ,ポジティブな言い回しを探す回転の速さも求められる。その点で,巻末に掲載された「ネガポジサクッと事典」は面白く役に立ちそうだ。例えば,「あつかましい」と感じたら「度胸があって,素直な」と言い換えてみる。人材タイプ別の特徴・注意点とともに,シチュエーション別の「よくないフレーズ」と「おすすめのフレーズ」を対比させ「ほめ方のポイント」をまとめているので分かりやすさは抜群。コミュニケーション研修に取り入れたり,副読本として推奨したりする活用もありだろう。

●監修者:西村貴好  ●発行:永岡書店/2016年9月10日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,000円(税別)

結果主義のリーダーはなぜ失敗するのか

 ビジネスで結果が求められるのは当然としながらも,目先の業績にこだわる余り,不正に手を染める愚挙を,著者は厳しく戒めている。その過程では,「チャレンジ」や「コミットメント」が独り歩きして(口にする側に意図がなくても)脱法行為の示唆になる危うさを指摘している。不祥事が起きるたび,経営者は「法令遵守」「コンプライアンス厳守」「安全重視」「顧客第一」など総花的な不正防止策を声高に宣言するが,それは「常識」を言ったに過ぎないと見なし,マネジメントの課題で捉え直したとき,解決の近道は「人の育成と啓発」に行き着くと解説している。ヒト・モノ・カネという限られた経営資源を改めて考えれば,伸びしろのある要素は「ヒト」しかなく,「結果を出したければ人に還れ」と言い当てる。結果至上主義の誤りを突き,個人成果ではなくチーム成果をもたらすリーダーの姿を明快に語るとともに,リーダーの品格と見識を磨くための参考図書を挙げて,リダーシップの神髄に迫る。上位役職者ほど緊張を迫られそうな内容だ。

●著者:本田有明  ●発行:PHP研究所/2016年9月30日
●体裁:新書版/237頁  ●定価:850円(税別)

職場の問題地図

 「業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士」を自認する著者は,主要企業で進むワーク・ライフ・バランスの取り組みにはワナがあると警戒を示す。すなわち,「早く帰る制度」を導入し,「コミュニケーション研修」を実施しても,仕事の量とやり方が変わらない限り,どこかにシワヨセが行き,無理が出るとの指摘だ。真に効果を得るためには「制度」「研修」に加え「プロセス」と「場」の観点が不可欠だと提案している。従って本書の内容は「仕事の改善ガイド」と理解できるのだが,面白さは「問題地図」という手法にある。どの職場でも起こりそうな事例をもとに,トラブルと悪循環の相関関係をこれでもかとうほどの細かさで描き出し,「1丁目:手戻りが多い」「2丁目:上司・部下の意識がズレている」から「10丁目:だれが何をやっているのかわからない」「11丁目:実態が上司や経営層に伝わっていない」までユーモラスにえぐり出す。仕事を指示する側も,受ける側も合理的にハッピーになるための知恵と改善ポイントが学べる1冊。

●著者:沢渡あまね  ●発行:技術評論社/2016年10月25日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki